2017/01/08

【2017・変わる建設産業】ゼネコン・設備 新技術の開発、導入加速で将来の担い手不足緩和


 人口減少と高齢化の中で全産業が生産性向上の必要性を声高に叫び始めている中で、建設業ではある種の切迫感を持って新技術の開発・導入が進んでいる。首都圏の建築需要がピークに達する2018年から19年にかけて一部職種で必要人員数(山積み)の予測が上昇し、この緩和のために技術開発・導入が進められている。各社はこの動きを将来の担い手不足を見据えた生産性向上につなげようとしている。写真は将来のスーパー職長を育成する大林組の技能者訓練校

 日刊建設通信新聞社が大手・準大手16社(有効回答13社)に対し17年1月から18年12月までの月別の「職種別労働需給状況」をアンケートしたところ、「耐火被覆」「溶接工」「ALC工」を中心とした一部職種で、18年以降の必要人員の山が積み上がっていることが分かった。

■大手ゼネコン
 大手ゼネコン幹部は「総需要が多すぎて供給が追い付かないのではない。S造の増加に伴い、S造関連工種のピークが重なった場合を想定した結果」と説明する。1年半ほど前に首都圏建築需要の急増がささやかれた際に各社は、型枠や鉄筋など主要職種の山積みをならすため、RC造をS造に変更した。業界全体としてその動きが重なり、いまS造に関係する職種の人員確保に不安が出ている。
 このため、各社では、耐火被覆やALCの歩掛かりを向上するための機械開発や溶接ロボットの開発などを積極的に進めている。BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)やi-PadなどのICT(情報通信技術)の現場適用も一気に広がりつつある。型枠工にALC取り付け作業の習熟を呼び掛け、支援制度の検討を始めるなど、既存専門職種の許容量を超えた時のバッファー(緩衝装置)として「多能工」の育成も始まっている。各社は、一つひとつの取り組みが将来の担い手確保につながることを強く意識している。

◆泣く泣く辞退も
 着実に受注を積み上げるゼネコンの中でも、大手クラスは請負額50億円以上の大型プロジェクトが受注の7割を超える社もあり、工事規模の大型化が鮮明になっている。特に建築プロジェクトでは大型化に伴い、設計施工一括の特命受注が拡大しているのが特徴だ。
 大型化の進展は、大都市部の再開発事業に加え、倉庫や工場などの生産系施設が牽引している。東京外かく環状道路やリニア新幹線を筆頭に土木工事の大型化が鮮明になり、国内マーケットは土木、建築を問わず、総じて拡大基調にある。ただ大手クラスといえども工事の消化能力は限られ、特に民間建築では特命で声がかかっても、泣く泣く辞退する案件も少なくない。それが準大手クラスに回っている。

◆計画受注で建築主に変化

 大手の計画的な受注がより強まったことで、建築主サイドにも変化をもたらしている。絶対条件でもあった完成時期の縛りは緩くなり、しかも計画段階からゼネコンへの参加を求めるプロジェクトが増加し、これが設計施工の一括受注につながっている。
 以前は頻繁にあった民間建築の設計コンペは影を潜め、特命受注が増えている点も現在の傾向だ。大手設計部門の中にはスタッフに少しでも多くのコンペ経験させたいと、特命の大型案件を多く抱える本社の担当者にあえて支店管轄のプロジェクトの設計コンペを担当させる動きもある。
 大手からは、分野によっては施主が発注時期を調整し始めているとの声も聞こえてくる。手持工事が積み上がり、より利益の得られる工事への選別受注が進む中、建て替え工事を控えている病院や学校などは建設コストの動向をにらむ傾向にある。建設需要が減少に転じると言われている2020年以降に工事を発注する流れが出てくるとの見方も広がっている。

■準大手ゼネコン

◆生産体制変革へ検討本格化

 準大手ゼネコン各社の2017年3月期上期の業績は引き続き高水準を記録し、好調に推移した。今後、18年から19年にかけて20年の東京五輪関連工事や大型の再開発工事など首都圏の建築工事はピークを迎える。そのため、各社とも20年以降の建設市場への対応も見据え、生産性向上に向けた取り組みや検討を加速している。
 ある準大手ゼネコンは社内に新組織を設置し、ICT(情報通信技術)などテーマごとに部会を設置して業務効率化の実施内容を検討している。建築現場には各社員にタブレット端末を配布したほか、各部署が実施するパトロール向け書類の統一化も検討している。取り組みごとの具体的数値目標も設定しており、達成に向け積極的な技術導入を推進している。
 最先端の施工・管理技術に対する社内の活性化を図るため、情報化や工業化に関する先端技術の情報を整理し、10-15年後を見据えた将来の建設現場を提案する準大手ゼネコンもある。社員が発表したバーチャル・リアリティーや自動3Dスキャンロボットなど先端技術を使った施工現場の構想は、社内のロードマップに反映されオープンイノベーションによる社外のアイデアや技術を活用して将来の技術開発に生かす方針だ。
 迫り来るピークに向けて、ICTやIoT(モノのインターネット)を始めとした技術の活用など、各社とも着実に取り組みを進めている。足下の供給力確保だけではなく、長期を見据えた生産性向上への取り組みが、生産体制の変革に寄与している。

■設備工事業

◆ICTで効率・省力化

 設備工事業界でも、将来を見据えた生産性向上への取り組みが活発になってきている。後工程である設備工事の首都圏における施工体制の現状は、比較的余力があるものの、あくまでも“嵐の前の静けさ”であり、今後、技術者や技能者が不足するのは確実とみられている。長期的な労働力人口の減少も見据え、ICTを活用した業務の効率化や省力化・省人化などが進められている。
 電気や空調、衛生設備などの大手クラスでは、タブレット端末を使った施工管理や写真検査などが進み、大手以下にも広がりつつある。現場のリアルタイムの映像などを見ながら、不明点があった場合に指示を出すなどの後方支援も一部で始まっている。
 ICT活用で先行している通信建設会社の中には、全国で行われている毎日の施工データを集約・分析し、好事例を水平展開するなどのビッグデータ活用に乗り出しているところもある。
 空調分野でも、施工後のメンテナンスやリニューアルの獲得を視野に、独自のBIMシステムや各種情報を一元化してグループ会社間で共有するプラットフォームの構築に向けた動きが出始めた。
 また、今後の限られた成長市場として各社が注力するリニューアル分野では、大幅な業務の効率化を実現する3次元(3D)レーザースキャナーに注目が集まっている。機械室などについては、設備の増設や数度にわたる改修などの結果、最新の現況図が存在しないのがほとんどと言われる中、時間と手間をかけずに正確な現状把握ができる。3Dデータをもとにリニューアル計画を検討できるため、施工段階の手戻りなども防げる。唯一のネックである装置価格が低下に向かえば、一気に活用が拡大しそうだ。
 設備工事は細かい仕事が多いだけに、ロボットの活用については懐疑的な見方もあるが、省力化の観点から、天井裏の配線作業を支援するロボットを実際の現場で試験導入している企業もある。
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