2016/12/23

【現場最前線】かぎを握るのは熟練オペレーター!「軌策ケーブルクレーン」採用で挑む平瀬ダム建設工事


 清水建設・五洋建設・井森工業・ナルキJVが施工している平瀬ダム(山口県岩国市)で、堤体工事が最盛期を迎えている。名勝『錦帯橋』をも流失させた洪水から錦川流域を守り、渇水対策にもつながるダムの現場では、軽量バケットや情報化バイバック、バックホウブラシ、CIM(コンストラクション・インフォメーション・モデリング)など生産性向上策をふんだんに採用して作業員の労働時間抑制に取り組んでいる。

 錦帯橋から錦川を上流に約40㎞。平瀬ダムは、1950年と51年のキジア・ルース台風による大出水を契機に計画された。近年でも99年、2005年の台風で出水を経験しており、4つの台風による被害総額は112億7300万円に上る。洪水だけでなく、渇水も平成に入って6回あった地域だ。洪水調整容量が2倍に引き上げられ、最大出力1100kW時の発電設備も設置する平瀬ダムへの期待は高い。
 堤高73m、堤頂長300m、堤体積34万m3で、工期は14年3月から20年6月まで。山を切り出さず、05年の台風14号の出水で堆積した河床砂れきをコンクリートに使用している。清水建設の平塚毅所長は「河口まで流れた石のため、角が取れて丸く、コンクリートの流動性を高め、品質を上げる効果がある」と説明する。
 生コンや資材を搬送するクレーンは当初、固定ケーブルクレーンと小規模な軌策ケーブルクレーンの2本を堤体上空に張る計画だったが、大型の「軌策式ケーブルクレーン」に変えた。「2本あると、揺れなどでぶつかる可能性もあり、安全面で大型1本の方が安心」という理由だ。平塚所長は軌策ケーブルクレーンによる施工経験がなかったが、計画段階でさまざまなダムを見て回り、ある現場で熟練オペレーターの技を見た際に「このオペレーターが来てくれるなら、ケーブルクレーンでやろうと思った」という。もし断られていたら「別の工法にしていたかも知れない」と語るほど、オペレーターが工事のかぎを握っている。
 生産性向上にもさまざまな工夫を盛り込んでいる。バッチャープラントからバケットに生コンを運搬するトランスファーカーには全自動式を導入した。また、バケットは通常の鋼材より3-4倍硬い「耐摩耗鋼板ハードックス」で製作することで、バケット重量を1.25tに軽量化して容量を0.5m3分大きくした。打設能力が10%向上して打設時間が1時間短くなり、「作業員の労働時間を減らせた」
 コンクリートの締め固めで使用するバイバックには、3Dスキャナーを搭載し、表面の平坦性をモニターで確認できるようにして、オペレーターの熟練度による締め固め時間の差を解消。岩盤清掃では通常、人力で掃くが、バックホウの先に細い平鋼をほうきのように取り付けた「バックホウブラシ」を開発したことで、作業人工を通常の10分の1に削減できた。
 ダムの品質に大きくかかわるひび割れ管理では、「3次元温度応力解析」によってひび割れ確率の高いブロックを抽出し、そのブロックに温度計を取り付けて温度差から「ひび割れ指数」を表示する。「技術者の経験から、どこがひび割れやすいかは分かっているが、指数で見える化することで、クラック発生前に養生などの対策を打てるようになった」という。ダム全体の3次元モデルも作成し、技術者が日報を作成すれば自動的に打設実績などのデータをブロックごとに記録する。
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