2016/12/17

【高砂熱学工業】有望市場のデータセンター向け空調 リニューアルも見据え研究進める


 面積的にはわずか数%の空調設備が、施設全体の消費電力の半分ほどを占めるというデータセンター(IDC)。1990年代に数多く建設された大型施設の更新や、IoT(モノのインターネット)の急速な進展などを背景に、IDCは今後も一定の需要が見込まれる有望市場の1つだ。2000年ごろから先行的に、IDCに特化した空調の研究に取り組んできた高砂熱学工業のキーテクノロジーなどを追った。画像はハード面の主力商品「IDC-AFLOW」の構成

 同社がIDC構築時に提唱しているのが、設備冗長性などの信頼性、エネルギー効率、ライフサイクルコストの3点を全体最適化した「Green IDC」という概念だ。

技術研究所のSFLOWモデルルーム

 ソフト面では、温熱環境診断と省エネチューニングのサービス「グリーンエアIDC」により、ライフサイクルを通じた環境エネルギーソリューションをワンストップで提供している。
 メインサービスの1つが、特殊なシートとサーモカメラを使った簡便かつ高精度な空間温度の多点モニタリングで、短時間でヒートスポットなどを見つけ出す。診断結果をもとに必要なチューニングや追加工事を検討していくことになるが、技術本部技術研究所の相澤直樹担当課長は「なるべく測定や解析に時間とコストをかけず、その後の対策に注力できるようにしている」と話す。
 一方、ハード面の主力商品が、関電エネルギーソリューションと共同開発した空調システム「IDC-SFLOW(アイディーシー・エスフロー)」だ。これは約9割のIDCに採用されている日本で主流の床吹出し方式ではなく、サーバールーム内に直接冷気を供給する壁吹出し方式となっている。送風機の動力をいかに低減するかは、外気条件なども関係する熱源動力部分とは異なり、すべてのIDCに共通する課題。壁吹出し方式は床吹出し方式に比べ、空気搬送動力を約3分の1に低減できるという。


 壁吹出し方式自体はほかにも存在するが、特許技術の「整流機構」がエスフローの性能を際立たせる。出入り口や天井を含めたラック室のコールドアイル(冷気だまり)空間に、細かい編み目の独自開発ネットを張り巡らせることで、上段と下段などでムラが起きやすいラック吸い込み面の温度を均一化する。冷却効果の向上に伴い、給気温度を高めに設定できる。
 また、風速も大幅に落とせるため、サーバーメンテナンス作業者の肉体的負担の軽減にもつながる。技術研究所の柴田克彦担当部長は「人にもサーバーにもやさしい空調」と胸を張る。さらに、電力・通信ケーブルが敷き詰められた床下空間を空調用に使わないため、ラック増設時の空調能力増強が容易なほか、そもそもの建築階高を低減できるなど、工事費縮減や工期短縮といったメリットも生む。


 エスフローはこれまでに、IDC事業者や大学などの新築施設7件に導入した実績があり、「今後は90年代にできた施設などのリニューアルにも積極的に提案していく」(相澤氏)方針だ。技術研究所内にはエスフローのモデルルームも開設し、事業者や設計事務所、ゼネコンなどにも広く公開している。
 IDCの空調研究は今後も続く。15年度にはNTTデータ先端技術などと取り組んできた環境省実証事業「データセンタの抜本的低炭素化とオフィス等への廃熱利用に関する共同技術開発」が、世界初の連携制御技術による省エネ率70%の実現という成果を評価され、産学官連携功労者表彰の環境大臣賞に輝いた。
 さらに16年度からは、中小規模のIDCをメインターゲットに、電力使用効率を示す指標「PUE」の「1・0(補機動力ゼロ化)」を目指す同省実証事業に参画。高砂熱学工業は、ICT(情報通信技術)機器に内蔵されているファンと自然対流の力だけを使う低発熱密度対応冷却技術のほか、液体を用いる高・中発熱密度部分を含め、全体の冷却システム構築にもかかわる。
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