2016/12/28

【東北・記者座談会】復興・創生期間スタートの2016年 キーワードはi-Con


 2016年も残り4日となった。3月に東日本大震災から5年を迎え、4月からは復興・創生期間がスタートした。復興道路の開通やトンネルの貫通、仙台湾南部海岸堤防復旧工事の概成など、基幹インフラの復旧・復興は着実に進んだ。一方、台風10号による新たな被害も発生。また、「担い手の確保・育成」「i-Construction」(アイ・コンストラクション)などをキーワードにさまざまな活動が展開された年でもあった。恒例の年末記者座談会を通じてこの1年を振り返る。写真は志津川道路開通式。安倍首相らがテープカットした
◆東日本大震災から丸5年 復旧・復興は

3知事が初めてそろい踏みした12月の復興加速化会議

 司会 東日本大震災から丸5年が経過した。復旧・復興に関係したトピックスをあげてほしい。
 記者A 復興道路に位置付けられた三陸沿岸道路登米志津川道路の三滝堂インターチェンジ(IC)~志津川IC間が10月30日に開通した。三沿道が津波で被災した宮城県内の自治体(南三陸町)に延伸するのは初めてだ。式典には安倍晋三首相も出席し、待望の開通を盛大に祝った。
 記者B 三沿道で最長となる新鍬台トンネル(長さ3330m、施工=前田建設)を始め、トンネルの貫通が相次いだ。10月には16年度第2次補正予算を踏まえた復興道路・復興支援道路の開通見通しが公表され、全体約550㎞のうち約503㎞の開通にめどが立ったことになる。
 記者C 津波で甚大な被害を受けた仙台湾南部海岸の堤防復旧工事が3月に概成した。これにより、被災自治体が整備する道路のかさ上げや避難の丘などのハード対策および防災教育・避難訓練といったソフト対策を組み合わせた安全・安心なまちづくりに弾みがつく。
 司会 ここまでは岩手、宮城の話が中心だが、福島の状況はどうか。
 記者B 12月にJR常磐線相馬~浜吉田間の運転が再開した。福島県と宮城県を沿岸部で結ぶ基幹的鉄路だけに、地域からは喜びの声がわき起こった。
 記者C 岩手・宮城両県に比べれば遅れはあるものの、公共土木施設や災害公営住宅、復興まちづくりも着実に進んでいる。高速道路同士を結ぶアクセス道路「ふくしま復興再生道路」には、CM(コンストラクション・マネジメント)業務を導入して事業の円滑化を図っている。
 記者A 東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う除染で発生した汚染土壌などを、長期的に保管する中間貯蔵施設の初弾工事2件が11月に本格着工した。用地取得の課題はあるものの、今後は順次、着工することになる。

◆ことしのキーワードは生産性革命 ・ i-Con

日建連現場見学会でICT建機の端末をのぞき込む参加者

 司会 取材記者にとって、ことしのキーワードは何か。
 記者C 国土交通省が提唱する生産性革命・i-Conではないかと思う。特に東北では2月に全国初の組織となる「東北震災復興『i-Construction』連絡会議」が発足した。当初は国と被災3県・仙台市、有識者、建設業団体がメンバーだったが、8月からは青森、秋田、山形の3県が加わり、i-Conに関する情報共有などに取り組んでいる。
 記者B 関連してICT(情報通信技術)を活用した土工工事も話題となった。東北地方整備局は現時点で約40件の契約を結んでいる。第2次補正予算分の入札が残っているから増えるだろうし、来年度はさらに加速すると思う。
 記者C 建設関連団体もi-Conに対応する組織を設置するなど、高い関心を示している。日本建設業連合会東北支部が2月に「生産性向上推進特別委員会」を設置したほか、8月には東北建設業協会連合会や宮城県建設業協会も勉強会、推進部会をそれぞれ立ち上げた。
 記者B 「担い手の確保・育成」というワードも取材に行くたびに聞いたような気がする。日建連東北支部と東北6県との意見交換会でも週休2日制モデル工事の試行導入などをめぐって白熱した議論が展開された。
 記者A 12月17日に開かれた第7回復興加速化会議では、東北地方整備局から「東北復興働き方改革プロジェクト」が打ち出された。ICT活用や業務改善、技術者・技能者のサポート、ワーク・ライフ・バランス(WLB)改善サポートの4つの柱からなるものだ。生産性向上や担い手の確保は、官民共通の課題であり、一体で押し進めていくことが改めて重要との認識が示された。

◆台風10号の被害と災害対応
 司会 ことしは、8月末に気象庁の観測史上初めて東北の太平洋側に台風(10号)が上陸した。岩手県岩泉町のグループホームで多数の犠牲者が出たほか、インフラの被害も大きかった。台風10号に関してはどうか。
 記者B 岩手県にとっては東日本大震災からの復興の最中の出来事で、しかも被害規模も大きかった。国道106号などが寸断され、現地に入るのにも大変だった。
 記者C そうした中で、国交省のTEC-FORCE(緊急災害対策派遣隊=テックフォース)が大きな役割を担った。約1カ月間に東北と関東、北陸、中部、近畿の各整備局から派遣されたテックフォースは延べ2164人にも上る。リエゾン(現地情報連絡員)も延べ280人が被災自治体に入り、テックフォースとの橋渡し役や首長のサポート役などを務めた。
 記者A テックフォースが被害調査や被災自治体に対する説明に使ったUAV(無人航空機)の動画が非常に効果的だったという。寸断された各路線の道路啓開には、地元建設企業のほか、復興道路・復興支援道路のトンネル工事を担当するゼネコンも協力した。

 司会 ここからはアトランダムにトピックスをあげてほしい。

津軽ダム竣工式

 記者B 10月に津軽ダムが竣工した。既存の目屋ダムの再開発事業として1988年4月の事業着手以来、28年の歳月を経て完成した。たび重なる水害と渇水に悩まされてきた地域の人々にとっては、悲願のプロジェクトだっただけに、式典も盛大に執り行われた。今後は、観光振興を含めたストック効果に期待がかかる。
 記者C 仙台空港が7月1日に空港コンセッション(運営権付与)事業の初弾として、国管理空港では全国で初めて完全民営化された。東京急行電鉄や前田建設など7社で構成する「仙台国際空港株式会社」が運営を担う。全国初ということもあって、多くの耳目を集めた。今後、民営化によって仙台空港がどう変わっていくかが興味深い。
 記者A 仙台市でさまざまな全国大会が開かれた年だった。その代表が土木学会の全国大会で、「復興、そして創生へ-土木の力で地域を元気に-」をテーマに9月7日から9日までの3日間にわたって開催された。土木プロジェクトの第一人者らによるリレー講演など新たな試みのほか、一般市民も参加できるイベントが多かった。
 記者C 主会場となった仙台国際センターと東北大川内キャンパスは、昨年12月に開業した地下鉄東西線国際センター・川内両駅に隣接しており、特に宮城県外からの参加者にとっては「仙台駅からスムーズに移動できる」と好評だった。
 司会 東日本大震災からの復興が最優先事項であることは間違いない。ただ、各地で頻発している豪雨災害への対応や、担い手の確保・育成、生産性の向上、インフラ老朽化対策など課題も山積している。建設業界と行政機関がそれぞれ果たすべき役割を果たし、これらの課題が一歩でも解決に向かうことに期待したい。
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