2016/11/20

【MIKI建築設計事務所】2つのモデルと新旧技術「いいとこ取り」で再建 宝塚市・中山寺五重塔


 兵庫県宝塚市にある大本山中山寺(なかやまでら)。聖徳太子が創建したと伝えられ、関西では安産祈願のお寺としても広く知られている同寺で今、五重塔の再建が進む。同寺建物の設計監理に長く携わっているMIKI建築設計事務所(宝塚市)の井関幹雄相談役と市場浩取締役設計部長の2人に、今回の事業についてポイントなどを聞いた。

 井関氏によると、五重塔の設計に着手したのは2009年。当時の中山寺管長の意向で、京都府加茂町にある国宝・海住山寺五重塔をモデルに設計することになった。調べてみると鎌倉時代(1214年)に建立された同塔は五重塔のなかでも「特異な部類」に属することが分かった。高さは約17.7mと五重塔にしてはやや小さく、プロポーションも細身になっている。また塔の軒を支える『組物』がほとんどの場合『三手先』になっているのに対し、海住山寺は『二手先』になっている。

井関幹雄相談役

 ところが当初、寺側から求められたのは「30mを超える高さ」だったことから、まず敷地との関係性を考慮して理想的な塔の高さを決めることから始めた。紙模型を製作し、隣接する大願塔とのバランスも考慮した結果、「1.5倍」がベストと判断した。ただしスケールアップさせた場合、二手先では軒を支えきれない可能性もある。結局、組物や垂木の間隔を決める『枝割』については、海住山寺とは別の五重塔を参考にすることにした。
 モデルになったのが、広島県福山市にある国宝・明王院五重塔。南北朝時代の1348年に建立されたものだ。明王院の作りを参考にしつつ「軒先の勾配を守ることに苦心した」と井関氏。2つの塔の「いいとこ取り」によって、中山寺五重塔のプロポーションが固まった。
 これまで庫裏(くり)や寺務所といった中山寺の設計を一手に引き受けてきたものの、純木造の伝統工法に取り組むのは初めての経験。「苦心の連続だった」と市場部長も振り返る。

市場浩取締役設計部長

 今回の五重塔は建築物ではない。純木造で五重塔を再現しようとすると、現代の建築基準法においては工作物としての扱いになる。架構形式は伝統構法に則りながら、限界耐力計算法を使って耐力の確認を行った。
 木工事の前段階、造成工事も大がかりなものになった。敷地を地下10mまで掘り込み、RC造の大型基礎を設けた。その後、素屋根が設置され、ようやく木工事がスタート。一番下の層(初重)から組み立て、約2カ月ごとに二重、三重と順番に組み上げていった。

軒部分。特徴となっている群青色などお塗料はアクリルが用いられた

 既に素屋根は取り払われ、全体像を現しつつある。遠くから見ると、塔全体が青みがかって見える。組物や垂木にほどこされた群青色のためだ。この色が使われたのは寺からの要望によるとのことだが、塗装にはアクリル塗料が使われた。伝統的な膠(にかわ)塗料はあえて使わず、耐久性を考慮しアクリルを採用したという。
 長く後世に残るものがこのようなデザインで良いのか、と自問したこともたびたびあったと市場部長は振り返る。それでも「完成した五重塔を見れば、苦労も吹っ飛ぶ」。伝統構法を軸に新旧技術の「いいとこ取り」も実現した中山寺五重塔は、年内に工事を終える予定だ。

【概要】
高さ=27.17m
用途=記念塔
建築主=中山寺
設計=MIKI建築設計事務所
構造設計=能勢建築構造研究所
施工=大成建設
木工事=團上工務店
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