2016/10/26

【アルカシア建築賞最優秀】人・自然・環境を輝かせる“名脇役”としての建築を 中村拓志氏に聞く


 アジア19地域の建築家団体で構成するARCASIA(アルカシア=アジア地域建築家評議会)のアルカシア建築賞2016で、6カテゴリー10部門のゴールドメダル受賞作の中から最優秀賞(ビルディング・オブ・ザ・イヤー)に、中村拓志氏(NAP建築設計事務所)=写真=が設計した『狭山の森礼拝堂』が輝いた。木々に抱かれながら森に祈りを捧げる静ひつな空間は、これまでに国内外の建築賞を射止めているが、欧米の評価軸ではない、アジアの評価に「ひときわうれしい」と語る。地域の風土や産業、敷地の地形や自然、そこで活動する人々のふるまいに寄り添う設計をモットーとする中村氏に、受賞への思いと今後の活動について聞いた。

 昨年、ヨーロッパ主要建築家フォーラムが運営する、次世代の世界基準となる建築デザインに与えられるリーフ賞の最高賞を『Ribbon Chapel』(広島県尾道市)で受賞するなど、これまで受賞歴は数多いが、「建築をつくる上で地域性を大事に考えている」だけに、「自然対人間という二項対立的な欧米の自然観とは違う、自然との調和であったり、そこに尊敬の念を見るような、そういう感性、自然観をアジアの人々に共感してもらったのではないか」と今回の受賞を喜ぶ。

木々に抱かれながら森に祈りを捧げる礼拝堂
(photo by Koji Fujii/Nacasa and Partoners.Inc.)

 この礼拝堂は、豊かな自然に恵まれた狭山丘陵の一角にある、狭山湖畔霊園の40周年を記念して管理休憩棟とともに計画されたもので、若手建築家4者によるコンペで設計者に選定された。
 「経済原理でつくるものと違って人間の根源を探るような、そういう設計過程でした」と振り返るように、「祈ることとは何か、死とは何なのか。人々が気軽に訪れて故人を想い先祖に感謝する気持ちになってもらうにはどうしたらいいのか」と自分に問う一方で、さまざまな宗教、宗旨・宗派であっても共有できる祈りの対象とは何かを考え続けた。その結果が「森」だった。「どんな人にとってもこの森は平等に神聖な場所ではないか」と。森と墓域との境界に位置する敷地には植樹し、木々に寄り添うように建築が立ち上がる。枝葉を避けるために外壁の上端を内側に倒した結果、2本の梁を互いにたて掛け合う「扠首(さす)構造を持つ合掌形式」となった。


251本のカラマツ集成材からなる構造体はそのまま仕上げ材となる。
床はわずかに祭壇へと傾斜し、人は無意識のうちに祭壇へと向かい、
その奥の森に祈る。(photo by Koji Fujii/Nacasa and Partoners.Inc.)
  

 礼拝堂に求められる永遠性を担保し、かつ表現する上で屋根材にもこだわったという。「地域の産業の中で建築ができあがってほしい」という思いもあり、施工場所から車で1時間ほどの埼玉県川口市にあるアルミ工場に行き着いた。“キューポラのある街”と呼ばれたこの街の鋳物職人たちと、耐久性がありながら3次曲面に追従可能で手曲げ可能な限界でもある厚さ4mmのアルミ鋳物の板材を開発した。
 砂型に溶かしたアルミを流し入れ表面に流紋が表れることで、「周囲の木々の樹液などの汚れが目立たない。経年で緑がかっても、それもまた味ととらえられるような素材」となり、2万1000枚に及ぶ板の一枚一枚に異なる表情をもたらす。「職人さんたちも自分のつくったものを誇りに思って家族を連れて見に来たりしていた。いろいろな人のかかわりの中でいい建築が生まれるのだと改めて実感した」
 施主である大澤秀行墓園普及会理事長の「ものづくりの姿勢」にも多くを学んだという。施主、設計者、施工者が力を合わせてつくらないと本当にいいものはできないと「三位一体」のスローガンを現場に垂れ幕として掲げるなど「非常にいい関係で仕事ができた。単にものをデザインするだけではなくて、人間関係そのものをつくっていくということを学ばせてもらった。自分自身の成長のメルクマールとなった」と謝意を示す。
 「その建築があるから人が、自然が、環境が輝く」という、“名脇役”としての建築のあり方を志向し、「あくまで使用する人の目線と行動、ふるまいから建築を立ち上げたいと思っている」からこそ同じ素材や形式で建築をつくるという、「テイストを固定したような作家性はあまりない」とも。「場所や人、自然に合わせてつくるため、建築が違う姿をもって表れる」わけだが、「作家としての一定した何かがないと評価されづらい傾向にあるのではないか」というジレンマもあったというだけに、今回の受賞には「背中を押してもらえた気持ちになる」と語る。
 今後、「より公共的なもの、地域の人々、地域社会や産業に建築が寄与できるプロジェクトをやっていきたい」とし「建築は一品生産だから、なおさら大企業的な論理ではなく、地域の人や社会、産業とともにつくられていくべきだ」と力を込める。

◆建築概要
▽構造・規模:RC一部木造地下1階地上1階建て延べ110.49㎡
▽敷地面積:148.22㎡
▽所在地:埼玉県所沢市
▽施工:清水建設
▽施主:公益財団法人墓園普及会
*礼拝堂は事前に予約すれば見学可能。問い合わせは電話04-2922-4411
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