2016/10/09

【現場最前線】220tの劇場舞台屋根を35mリフトアップせよ! 札幌創世1.1.1区再開発


 札幌市の中心を南北に一直線に流れる創成川のほとり、明治初期の開拓期に札幌開発の基点となった市街地中心部で、新しいランドマークタワーの建設が進んでいる。「札幌創世1.1.1区(そうせいさんく)」の再開発事業地区における初弾事業で、オフィス・テレビ局などが入る高層棟と、劇場などを備える低層棟、地下には大規模駐車場・駐輪場、地域冷暖房施設を整備する計画。地元住民、経済界の視線を一身に浴びて進む工事の現状を追った。

 札幌創世1・1・1区北1西1地区再開発事業の施工を担当する大成建設・岩田地崎建設・伊藤組土建・岩倉建設・丸彦渡辺建設JVの金田亮太郎作業所長(大成建設)は「札幌の未来を創造する場として利用者に喜んでもらい、職員・作業員が竣工後に誇りと達成感を感じられる建物になるよう、安全に心掛け無事故で竣工したい」と意気込む。
 高さ124mの高層棟は、低層階が放送局、高層階が最新の制振技術によって災害時のインフラ寸断にも対応できる「札幌で最高水準のハイスペックオフィス」となる。隣接する低層棟は、北海道初の多面舞台を備える2300席の札幌文化芸術劇場や札幌市図書・情報館、札幌文化芸術交流センターが入る札幌市民交流プラザとなる予定だ。

外観予想パース。札幌の新ランドマークが未来創造の拠点となる

 目玉施設である札幌文化芸術劇場は、文化芸術の発信拠点としてふさわしく、オペラ、バレエ、ミュージカルなど国内外の大規模で本格的な舞台や、ポップス・歌謡コンサートなど、さまざまなジャンルの公演を上演・鑑賞できる。施工前に劇場内部の10分の1の模型をつくり、レーザー光を使用してすべての客席へ音が到達しているか確認したり、舞台上で音を発生させて有害なエコーがないことを検証するなど、音響面の綿密な検討が進められてきた。
 施工面では、高い技術が求められる劇場部分がクリティカルパス(工期を左右する作業)となる。大空間となる舞台の屋根の施工では、重さ220tのトラスを地組みし、高さ35mを一気にリフトアップする計画で、さらに重層構造の客席部は仕上げ用の鉄骨内装材を取り付けるために特殊な昇降式の大型ステージ足場を配置する。天井のリフトアップは12月末、ホールの仕上げは17年4月に始まる。難関である劇場の施工を円滑に進めるため、「鉄骨工事・仕上げ工事の施工計画を、低層棟チームを中心に大成建設本社や協力会社の協力を得て取り組んでいる」(同)。

地アブは多くの玉石が出る難しい地質への対応が求められる

 地下部にも工夫が詰まっている。豊平川の扇状地に広がった札幌市内は玉石が多く、自然水が豊かな砂れき質だ。「いかに土留と止水をするかが、今回の工事の非常に難しい課題」(同)。連続壁で一般的に使われるSMW工法では玉石にオーガがはじかれ高い精度が出ないため、横方向に向かって地中連壁を構築する工法を道内で初めて採用した。地下部の構築も、道内では数件しか実施例がない「逆打ち工法」を採用している。既に掘削は床付けまで到達し、地下4階部で残土の搬出が進んでいるものの、「水だけは最後まで予断を許さない」(同)と慎重な姿勢を崩さない。
 9月上旬の現場全体の作業員数は約350人。今後、地下、高層棟と低層棟の躯体、設備、仕上げが同時並行で進み、作業員数は最大1500人に膨れ上がる。「仕上げにかかる来年は常に1000人体制が続く」(同)。だが、長年同社が道内で培ってきたネットワークを生かし「いまから専門工事業者と打ち合わせながら要員を確保している」(同)という。
 多くの作業員が同時並行で作業を進める中で工期を順守するには、一層の生産性向上が求められる。施工の難易度が高い劇場では、BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)を使った3次元データにより、鉄骨・設備・仕上げの干渉を常に確認しながら施工計画を立案している。「トライすることに意義がある。使ってみて生産性が上がるものを積極的に活用することが大切だ」(同)と大成建設の技術をフル活用する方針で、現場内で写真撮影や設計図面確認ができる『フィールド・パッド』を導入したほか、今後もウエアラブル端末を使って1人で墨出しができる『T-Mark・Navi』などの積極的な利用を検討している。
 大成建設と地元企業、専門工事業者がタッグを組んで、札幌の新しい未来を創り出す。
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