2016/08/07

【コムシスグループ】ため池活用した「浮かぶ」太陽光発電所 水質改善効果も


 農業用水を確保するため、人工的に築造された「ため池」。全国に約20万カ所、2ha以上の大規模なものだけでも約6万3000カ所が存在し、多くは西日本エリアに分布している。それらは受益者の水利組合や自治会などが所有しているが、中山間地域は高齢化も著しく、管理体制のぜい弱化が懸念されている。“遊んでいる水面”を有効活用してもらおうと、コムシスグループはことし1月、兵庫県加東市にある農業用ため池を賃借し、グループ初の水上フロート式太陽光発電所を開設した。

 「新しいことには当然リスクがある。まずは自社グループで試してみて、それから顧客に展開していくのが、われわれのスタンス」と語るのは、日本コムシス社会基盤事業本部環境・エネルギー部の筒井浩部長。
 加東市に建設した浮体式メガソーラー発電所「サン・レイクス 屋度 加東」は、連結子会社のコムシスクリエイトが発電事業者として運用・管理している。施工者の立場で事業に参画した日本コムシスは、ここで得た経験とノウハウを生かし、ほかの発電事業者からの工事受注を狙う。
 発電所となったため池には総出力2009kW、年間約210万kW時の電力を生み出す8036枚のモジュールが浮かび、約5.7haの水面のうち、約2.6haを輝くパネルが覆う。年間約1100tのCO2排出量削減効果も見込んでいる。


 施工に当たっては水上作業を最小化するため、陸上で組み立てたユニットをクレーンで水面に置き、定位置に移動させる方法を選択した。フロート架台は軽量で紫外線や腐食に強い高密度ポリエチレンを使ったタキロン製、モジュールは20年性能保証の付いたヒュンダイ(韓国)製を採用。設備全体をアンカーシステムで固定し、波や強風にも耐えられる設計を施した。かつて水上で使えるモジュールは特別な仕様から高価だったが、取り扱うメーカーも増え、いまでは陸上用とほぼ同等に近い価格にまで下がっているという。
 フロート式には、発電効率のアップという事業運営上の長期的メリットもある。日射を遮る障害物が少ない上、水上設置によりモジュールに天然の冷却効果が得られ、地上設置型に比べて高い発電効率が期待できる。貯水の蒸発量軽減や日光遮断による藻類異常発生の抑制など、水質改善効果も生むという。


 一見すると、水上施設は維持管理が大変そうだが、実はそうでもない。土ぼこりが舞い上がらないためパネルは汚れにくく、下草も刈る必要がない。陸上施設の場合に求められる雨水流出防止策を、まったく考えなくていいのも水上ならではのメリットだ。
 悩みといえば「周りをフェンスで囲い、人が立ち入れないようにしているため、水鳥のサンクチュアリになっており、鳥たちがふんをしていく」(冨岡眞一社会基盤事業本部エネルギー設計担当部長)ことくらい。生物の生息・生育の場という、ため池の多面的機能の1つが損なわれていない証左でもあり、“悩みの種”も「多少強めの雨が降れば自然に流れる」そうだ。
 水面が安定しているため池はフロート式太陽光発電所の設置に向いており、「適地は全国にまだまだある」(冨岡氏)。太陽光発電の固定買取価格が下落傾向にある中、用地所有者や発電事業者の動きは慌ただしくなっている。自社グループで事業全体のノウハウを持つ日本コムシスには現在10件程度、およそ20メガワットの施工について引き合いがあるという。

左から富岡、池上、筒井の3氏

 相談は大規模施設ばかりではない。池上一郎社会基盤事業本部電気通信システム部第2営業部長によると、「小さなため池を管理する自治会には、何とか年間の管理費だけでも生み出したいというニーズがある」。遊んでいる資産をうまく利活用し、所有者・事業者・施工者が適正な利益を得る。適切な施設管理は地域や住民にも歓迎されるはずで、“四方良し”の関係構築につながる。
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