2016/05/13

【ランクセス】新たな都市建築デザインにカラーコンクリート 「日本の景観色探る」試み始まる


 「世界的な都市化の流れに呼応するように、無機顔料ビジネスが着実に成長を遂げている」と明かすのはドイツ特殊化学品メーカーのランクセスでアジア・太平洋地域顔料ビジネス責任者を務めるラファエル・ズーハン氏だ。顔料ビジネスの成長率は年3%で推移するが、都市化が進むアジア地域は年4-5%もの高い伸びを続ける。東京五輪に向けた整備が本格化し始めた日本は「顔料ビジネスの最重点ターゲット」と狙いを定める。

 全世界の酸化鉄顔料出荷量は約90万tに達し、その4割を同社が担う。しかも生産した約半分は建設関連分野に提供する。日本では主に舗装ブロックやルーフタイルなどの着色に使われるが、近年はコンクリート打ち放しの建築に使われるケースも増えてきた。生コンクリートに混入すれば、カラフルなコンクリート構造物が実現する。

◆カラーコンクリートを効果的に使うまちづくり
 ズーハン氏は「世界の人口は増え続け、2060年にも100億人を突破すると言われる中で、人口増に伴う都市化の流れは世界的なトレンドとなり、都市の成長に合わせ、カラーコンクリートを効果的に使ったまちづくりにつながっている」と解説する。司法・裁判機関を一カ所に集約したバルセロナでは、建築家のデービッド・チッパーフィールド氏が14施設の演出にカラーコンクリートを巧みに使ったように「建築家や都市プランナーが、色を使うことで自らの作品に特徴ある風合いを醸し出す」事例は少なくない。表現手法の1つとして「カラーコンクリート採用の流れは間違いなく増えている」と手応えを口にする。

平田晃久氏が設計した集合住宅「アルプ」
(c)Toshiyuki Yano/矢野紀之

 顔料が効果的に使われた建築プロジェクトを対象にした同社主催のアワードでは、2015年に建築家の平田晃久氏が設計した集合住宅「アルプ」(東京都北区)が最優秀賞に選ばれるなど、日本のカラーコンクリート事例も世界的に高い評価を得ている。着色コンクリート総量は425㎡。酸化鉄黒色顔料(バイフェロックス4330/3)を使い、あえて墨色の外観を醸し出すことで、周囲との調和が生まれた。
 そもそもカラーコンクリートは顔料をセメントに5-7%添加し、色合いを出す。1000種類もの顔料があり、黄色や黄土色、赤色、茶色、さらには黒色まで自在だ。水セメント比の割合を調整すれば、気泡が多くなるために光が分散され、着色を薄くすることもできる。吉田眞悟武蔵野美術大教授は「景観を考える上で色の存在はもっとも重要であり、その都市や地域に合った風合いの色を探し出すことから始まる」と指摘する。

◆日本の景観色を探る
 景観デザインを意識した取り組みは数多くあるが、張り切りすぎるあまり「装飾過多」になってしまうケースも少なくない。景観配慮の一環から、地方自治体が農作物の防護ネットに補助金を出して色の統一化を図るケースも多いが「広く使われている青色のネットの色味を変えるだけで見え方が大きく違ってくる」と色決めの重要性を訴える。吉田教授は「日本の景観色を探る」目的から、同社と検討をスタートさせたことを明かす。
 20年に向け、日本での顔料ビジネスは「アジアでの年5%成長を上回る勢いで進むだろう」とズーハン氏は読む。五輪関連需要に加え、大型再開発計画が目白押しの東京だけに期待を持っているわけではない。東日本大震災の復興が進むにつれ、土木コンクリート構造物への着色需要も見逃せない1つの動きだ。無機の顔料であるため、持続可能性が高く、環境にも優しい利点も生かせる。「日本では景観重視の流れから土木分野の需要も拡大しており、このトレンドは他の国にも広がる可能性がある」と期待をのぞかせる。
 日本法人ランクセスの辻英男社長は「都市化の流れはわが社のメガトレンドに他ならない。東京五輪に関連したインフラ整備や施設整備が進む中、持ち前の革新的な技術が生かせる。東京の持続発展に向けて積極的に提案する」と先を見据える。都市の成長は街をデザインする流れを生み、その選択肢として顔料を使ったコンクリート構造物の増加に行き着く。同社は設計者やディベロッパーなどへの積極的な売り込みを始めた。
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