2016/05/12

【インタビュー】建築学会作品部門受賞者に聞く 『竹林寺納骨堂』の堀部安嗣さん


 「強いテーマ性を持った建築はナンセンスだ」。『竹林寺納骨堂』(高知市)で学会賞作品部門を受賞した建築家の堀部安嗣氏(堀部安嗣建築設計事務所)は、自らの設計姿勢をこう表現する。
 重視するのは「無力さの上に立った創造」だ。これまでにない素晴らしい建築をつくりたいという建築家としての欲望には理解を示しつつも、成熟社会では「既にあるものをさらに成熟させる役割も非常に重要だ」と強調する。

 その上で、「これまで建築家は課題をどう解決し、世界を改善するかを考えてきたが、それだけでは都市や建築は成熟しない」と指摘。建築家の公共的な役割として先人の技術や知恵を受け継ぎ、さらに発展させる必要があると述べる。





 「何でもできるという思想で建築と向き合っていては限界がある。自分の表現を偏重するのではなく、建築家の無力さを意識して設計する必要がある」とも。
 『竹林寺納骨堂』は、竹林寺の境内に建てられた納骨堂で、約1000体の遺骨を祀ることができる。この施設の設計に際しても「境内には何百年もの歴史があり、本堂を始め重要文化財に指定された美しい建物もある。そんな場所に自分の考えたテーマ性を持った建築をつくるのは無意味だ」と考え、既存の境内になじむことを最も重視した。
 このため、鉄筋コンクリート造の納骨室を県産材を活用した木造の屋根で覆ったほか、内壁にはその土地の土を塗り、内外の調和を意識して設計に取り組んだ。
 「作品の力強いテーマや社会へのメッセージにばかり意識を向けて設計すると、その建築だけが周囲から浮き出てしまう。成熟した都市には従来の環境に溶け込む建築であることが重要だ」と力強く語る。

内外との調和を重視

 境内の木々の間から続く参道は、旧来の獣道に沿って設け、老木の根や高低差に合わせて迂回を繰り返す構成とした。動線に自然を取り入れることで祈りの空間としての永続性や純粋さ、静けさを表現した。それだけではなく、人の動きを自然に合わせることで「人と自然が向き合い、生きた人と死んだ人をつなぐ距離と時間」を感じるように演出した。
 納骨室を過ぎた先には水の流れる水盤を設け、静的な土と動的な水を対比させた。納骨室で死者と向き合うだけでなく、強い生命力も感じられる空間を目指した。
 「いま、日常の風景から死を感じる機会が失われている。死者を恐ろしいものとして避けるのではなく、人の生と死をつなぐ道のような建築のあり方を考えた」という。
 こうした自然との調和を重視した結果として、参拝客以外にも納骨堂を訪れる人々は多い。作品部門の現地審査の際に納骨堂で読書にふける来訪者がいたこともあり、審査員も「この納骨堂に陰湿さはかけらもない」と高く評価した。
 この経験について堀部氏は、「(竹林寺納骨堂は)人の流れを変えるような強い力を持つ建築ではない」としながらも、「新しい建物が違和感なく受け入れられているということは、継承者としての建築家の役割が果たせたのだと思う」と振り返った。
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