2016/04/25

【インタビュー】“2重の要求”満たす医療・福祉建築を 建築家 針生承一氏に聞く





 東北を拠点に活躍している建築家の針生承一氏(針生承一建築研究所主宰)が古川医療設備振興財団(大阪府吹田市、古川國久理事長)の第3回医療福祉等施設設備功労者顕彰に選ばれた。1981年の独立以来、時間・空間・人の織り成す境界がなだらかに連続・結合するような“際(きわ)”の空間デザインへの美学が、医療・福祉分野からも高い評価を受ける針生氏に話を聞いた。

 針生氏と医療・福祉建築分野とのかかわりは、肢体不自由児施設の建築的計画の研究に取り組んだ東北大大学院のころにさかのぼる。「ハンディキャップを持つ人に対しては、健常者と同様の要求に加え、障がいで必要となる“2重の要求”に応えなければならない」と利用者自身とその要求にしっかりと向き合って対応することの重要性を説く。
 計画や設計にあたっては、「障がいは、その種類や程度によって千差万別であり、建築的な対応を含め、家具や道具などこれからも検討や研究を重ねていく必要がある分野だ」と指摘する。さらに日常生活や介護の機械化・自動化が進むことによって「非人間的なものになりかねない」と懸念するだけに、人がかかわる領域を残すことで「人間的に対応する余地を残しておくことも必要だ」と考えている。

太白ありのまま舎

 これまで数多くの医療・福祉施設を手掛けてきた。その中でも仙台ありのまま舎の専務理事だった山田富也氏との出会いに影響を受けた。「自らも筋ジストロフィー患者でありながら、障がい者の自立に積極的に取り組まれた。“ノーマライゼーション”という普通であることが最も大事だということを改めて教えられた」と振り返る。
 住宅街に建てられた太白ありのまま舎は、重度の肢体不自由者が地域社会の中で自由に自立生活を送るための施設だが、「当初は建設地周辺の住民から反対の動きがあった。住民説明会では、後天的な障がいを含めて誰もがハンディを持つ可能性があるという話をさせて頂き、ようやく理解が得られた」というその施設はいま、バザーを開けば大勢の人が訪れるなど、地域に溶け込み、欠かせない施設として親しまれている。
 介護老人保健施設の恵愛ホーム(宮城県多賀城市)では、外周に居室を配置し、中庭を囲むコモンスペースを緩やかに仕切ることで食事や談話、訓練などのさまざまなアクティビティーを創出した。そのほかの施設についても「回遊性を持つ“まち”が共通テーマ」になっている。

特別養護老人施設 シオンの園

 医療・福祉分野に限らず全てに共通するのは、地形を変えないということだ」と強調する。仙台基督教育児院シオンの園は、自然に恵まれた地形を残すため、擁壁ではなく人工地盤で地形の高低差に対応した。「“削らない、盛らない”という大原則をこれからも徹底していきたい」と力を込める。
 最近は、マンションのようなサービス付き高齢者専用住宅などの建設が相次ぎ、医療・福祉分野の産業化とグルーピングが進んでいるだけに「隔離された社会ではなく、まちの中に自然に溶け込み、より人間的に暮らせるような住まいと福祉を包含する施設を設計していきたい」と、開かれた福祉空間づくりにまい進していく覚悟だ。
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