2015/11/10

【妹島和世】変化する被災地のニーズ踏まえた「みんなの家」 まちづくり“新世代”へ期待


 震災以降、宮城県東松島市にある宮戸島地区の復興まちづくりアドバイザーとして復興支援活動に携わっている建築家の妹島和世氏(SANAA事務所・妹島和世建築設計事務所代表)が「被災後の活動について」と題して講演した。中田千彦宮城大准教授との対談を通じて「新しいまちづくりのために建築に関わるものができること」をテーマに同市内で手掛けた『みんなの家』や、住民・行政との復興まちづくり計画の策定作業を通して学んだことなどを紹介した。写真は14年7月に完成した宮戸島月浜の「みんなの家」。

 みやぎ復興住宅推進協議会と宮城県が主催したみやぎ復興住宅フォーラムで講演した妹島氏は、建築家の伊東豊雄氏らとともに結成した帰心の会による『みんなの家』の取り組みを紹介。設計・施工中を含め被災3県に15カ所につくられているみんなの家のうち、SANAAは、東松島市にある宮戸小学校グラウンド応急仮設住宅団地に集会所機能を持たせた『宮戸島のみんなの家』(13年1月完成)や、海水浴などの観光業から漁業へと産業構造の転換を図る起点となる特徴的な大屋根を持つ『宮戸島月浜のみんなの家』(14年7月完成)などの設計を担当した。
 妹島氏は、宮戸島のみんなの家を「最初は仮設住宅の隣のリビングルームのような存在を目指した」と説明。月浜のみんなの家については「市場や納品などの漁業活動に必要な屋根がある開放的な作業スペースを提案した。集落の人たちも気軽に立ち寄り、情報を交換できるよりどころを目指した」と、復興の進展とともに変化している被災者のニーズを踏まえた設計コンセプトを紹介した。





 資金や資材を提供した協力者や関係者に対する謝意を表する一方、活動資金を含めた運営体制が厳しくなる中で、それぞれのみんなの家の連携を促し、サポートしていくために設立されたNPO・HOME-FOR-ALLの設立経緯にも言及し、「つくりっぱなしで終わりではなく、地域が助け合える中核として、つくったものをネットワークし、情報や考え方を広く発信していきたい」と今後の展望を語った。
 また、宮戸島地区の復興まちづくりでは実現には至らなかったものの、住民や行政とワークショップを重ねながら、高台への移転や移転跡地の利用方法、まちづくりガイドライン、松島自然の家の誘致などにも取り組んだ。この中では「多くの人が自分の家や敷地のことは考えているが、その先のまち全体まで考えることは少ないということに気づかされた」としつつ、「検討の過程でさまざまなことを学べた」と振り返った。
 その上で復旧・復興の過程で、さまざまな立場から、まちづくりにかかわった若い世代が少なからずいる状況を踏まえ、「プロジェクトの最初の段階から子どもが参画している事業もあり、こうしたまちづくりの経験を積んだ世代が育てば、これまでとは全く異なることが起きるのではないか」と、震災を経験した世代が主役となってまちづくりを手掛ける新時代の到来に期待を寄せた。
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