2015/08/17

【山下PMC】経済大国・先進国のままでいたい…日本の「担い手」をどうする? 2020以降の建設学

人口減少と少子高齢化の波がひたひたと押し寄せている。政府機関の予測によれば、2010年に約1億2800万人だった日本の人口は、2030年には1億1600万人あまりに、2050年(おそらく私もいないと思うが)には1億人未満に減少しそうだ。逆に65歳以上の高齢者割合は、2010年に全人口の23%弱だったものが、2030年には32%強に、2050年には40%近くにまで跳ね上がりそうである。突然、若者たちが意を決したように子づくりに励むようになるなら話は別なのだが…。(イラスト:パターン素材 Freepikによるベクターデザイン

 こんな話をするのも、日本が今後豊かさを末永く保持していくには、この人口問題が切っても切れない関係にあるからだ。国の豊かさを示す指標の1つにGDPがあげられるが、GDPはその国の人口と人口1人当たりの稼いだ力(1人当たりGDP)の掛け合せによって構成される。それをドルベースの為替水準にすれば世界の国々と比較することができる。一般に経済大国と呼ばれる国々は、人口が多く、しかも1人あたりGDPが高い。その中でもさらに先進国と呼ばれるには、加えてヒト・モノ・カネを司るための社会基盤がしっかり整備されていることである。日本はそのどれにも当てはまる。40年以上、経済大国と先進国を維持してきた国なのである。
 それでは今後はどうか!? もちろん経済大国で先進国のままでいたい、すなわち成熟先進国家をずっと維持したい、と誰もが思うことだろう。ならば、人口(それも就労者人口)を多くするか、1人当たりGDPを上げるか、社会基盤をさらによくするか、しか解決策はない。(為替レートを上げることは、相対的に国力を下げる原因ともなるので解決策には当らないと判断する)
 そこにきて人口が目減りし少子高齢化が一層進むのである。外部から人を呼び込む移民政策をとるか、女性や高齢者層をさらに経済活動に投入するか、と考えるのが自然な発想であろう。移民政策については、ご存じのとおりさまざまな問題が内在するため、国全体が導入には消極的である。そうなると女性をもっともっと積極活用したり、高齢者層にもうひとがんばりしてもらうことになる。こと建設業界は経験工学が大きく幅を利かせる分野である。多くの経験と知見を蓄積してきた優秀な高齢者層は本当に貴重である。またこの業界で、女性の進出はまだまだ道半ばでもある。頭脳明晰で元気な高齢者層を永く登用したり、子育て後の女性を手厚く復帰させたりする取り組みは、ぜひこの建設業界が率先すべき施策だろう。
 話は変わるが、今後日本が外貨を稼いでいくには、経常収支のうち現在好調を維持する所得収支とこれから期待がもてる旅行収支の2つの収入を増やしていくしかない。技術先進立国を堅持し、観光大国を目指すのである。たとえば訪日観光客(インバウンド)を短期的移民とみなせばよいではないか。その稼いだ外貨で内需を刺激し、日本全体を持続可能な経済活動で大きく廻していくのである。
 とかく少子高齢化社会というと、保険制度や介護制度など年金をどのように配分していくか、その支出の話ばかりが議論されるが、私はその前にやるべきことがあるのではないかと思う。制度を維持するために、事業を創造し、稼ぐ力を高めるのである。岩盤規制に守られた医療福祉・教育・農業の分野にもメスを入れ、もっと合理的で効率的な経営手法や市場原理を導入できれば、自立どころか日本を支える産業にまで発展する可能性だってある。引いては1人当たりGDPを相対的に引き上げることにもつながる。少子高齢化社会になったとしても、高齢者層をできるだけ健康長寿に維持して、労働機会を与え、稼ぐ側の人口を増やしていくのである。国の医療福祉政策は、対症医療から予防医療へと転換を図ったが、将来はさらに健康増進やスポーツ振興にまで制度領域を拡げていくと予想される。総合的に国全体が活性化を促す側を重視して制度づくりをすることがとても重要だと実感する。「さらなる社会基盤の整備」とはこのようなことではないだろうか。建設業界が興味を抱く施設建築の話は、これらが整って初めて前に進められる。
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