2015/08/09

【大学生が取材!】BIM、タブレット利用で効率化 勝どき五丁目・日本最大級のタワーマンション建設現場

東京・ベイエリアの新たな都市型居住空間として建設が進む「勝どき五丁目地区第一種市街地再開発事業」。約1400戸を誇る超大型タワーマンションの建設が、作業員約600人体制で進められている。現場では、BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)やiPadなどの先端技術を駆使して、大人数での施工の円滑化に取り組んでいる。設計施工を担当する鹿島の作業所(岡田広行所長)を、東洋大学大学院理工学研究科博士前期(修士)課程のビルディングシステム特論(浦江真人教授)を履修する学生15人が訪問。この都内屈指のプロジェクトの現場を修士2年の内海健太さんがレポートする。

◆日本最大級のタワーマンションを見学

 都営地下鉄大江戸線勝どき駅から徒歩5分のところに位置する「勝どき五丁目地区第一種市街地再開発事業施設建築物等新築工事」。設計施工を鹿島が請け負う。現場は大きく3つのエリアに分かれており、それぞれA街区、B-1街区、B-2街区からなる。今回は、その中でも最も規模の大きいB-1街区を見学させていただいた。規模が延べ16万㎡を超える53階建てのタワーマンションだ。周辺環境に配慮したトライスター型のマンションで日本最大級の1420戸を誇る。
 見学を始める際、事業の概要をお話しいただいた。天候はあいにくの雨。カッパをお借りしての見学となった。案内の方の説明がよく聞けるようにトランシーバーを借りてヘルメットを被り、いざ本日、案内していただく岡田所長を先頭に現場へ。
 工事用エレベーターに乗って30階へ着くと、コンクリートの床や資材等が視界に入り、タワークレーンの足元が柱に固定されていた。鹿島独自の制振ダンパーHiDAMも設置されている。そして34階まで階段を登る。

◆3つのウイングで効率のよい打設

34階のコンクリート打設について説明を受ける
34階はスラブコンクリートの打設前なので床の鉄筋が露わになっている状態。天井もないので、例えるならビルの屋上に立っている気分だ。壁や天井が無いので、このマンションの特徴でもあるトライスター型の平面がよく見える。
 南、西、東ウイングと分かれており、工程も3つのウイングが上手にローテーションされている。超高層建築ではコンクリートを打設するのに工夫が必要となる。コンクリート打設用の配管を、いつどの場所に通したら効率よく打設できるかを考えなければいけない。この現場では、地上から高圧で送られてきたコンクリートをディストリビュータと呼ばれるホース状の機械で各ウイングに振り分ける。プレキャストコンクリート(PCa)工法による柱が切り株のように連続していた。

◆下階から積み上がる工夫凝らした住環境


 その後、階段を使って徐々に下のフロアへ降りていく。この現場は、地上階から内装工事が躯体工事を追いかける形で工事が進んでおり、下の階に降りるにつれて、設備や間仕切壁などの内装仕上げができ上がっていく様子、工事用のモデルルームなどを見ることができた。
 タワーの中心にはライトチューブと呼ばれるヴォイドがあり、中廊下型のプランで暗くなってしまう部分に太陽光を取り入れ、明るさを確保する仕組みを盛り込んでいる。
 各住戸にはオプションプランとして内装の一部をカスタマイズすることができるシステムが導入されている。壁紙やインテリアなどのオプションを組み合わせ、お気に入りの空間に仕上げることができる工夫も魅力的で、販売はかなり好調に進んでいるとのこと。

◆情報の共有を徹底/BIMで効率化も

詳しく丁寧な説明で学生からも多くの質問が寄せられた
現場には常時600人ほどの作業員がいるので、連絡や情報の共有を円滑に進めるため、朝礼時には資料をプロジェクターでスクリーンに投影して説明するほか、タブレット端末を利用して図面データなどを閲覧できるシステムを採用している。また地球環境にも配慮し、ゼロエミッションと称して現場で出た廃材やゴミなどを細かく分別し、98%近くをリサイクルしている。
 トライスター型の平面は住戸が多く取れるほか、屋外の空間を多く確保できるといったメリットが挙げられる一方で、配管などの設備系統の納まりが難しくなる。そこで鹿島では、BIMを利用して納まりの難しい部分の3Dモデル化に取り組んだ。2Dの図面では分からなかった取り合いなどが一目で確認できて効率化につながった。
 普段、私たちが体験するのは、何気なく利用している駅や店舗、住んでいるマンションや住宅など、完成した建築物がほとんどだが、建築中の建物内に入り実際に工事している最中を見学できたことは今後の建築人生において貴重な経験となった。図面どおりに建物を建てるという作業に加えて、規模が大きくなるにつれチームとして作業を進める難しさやそれに対する工夫を凝らす最先端の現場を見学させていただいた。

■引率雑感 施工現場の見学に意義

東洋大学理工学部建築学科 浦江真人教授

 今回の見学に参加した学生は、大学院のビルディングシステム特論の授業の履修者である。授業では、BIMをテーマにしたので、建築生産プロセスの仮想の3Dの建物モデルと現実の建物、それも作業中の動いている施工現場を見学できたことは学生にとって大変良かった。
 最近は、学生が施工現場を見学する機会が減っている。学生の現場離れも激しい。参加した学生は、意匠設計系が多く、学部の時からも施工現場を見学する機会も少ない。そういう学生にこそ現場を見せる意義がある。
 現場での説明や案内は大変詳しく丁寧に対応していただいた。説明に当たってくれた葉梨暢彦次長がわが大学の卒業生だったことも親近感が持てて良かった。

【参加者の声】

 上ノ内 智貴さん(修士1年)
 発電機を用いないライトチューブを導入することで、災害時の中央コア部を明るく保つという仕組みに脱帽した。

 菊地 真保さん(修士1年)
 朝礼などでのスマートデバイスとプロジェクターの利用が効率の良い方法だと感じ、ペーパレスの現場に驚いた。

 内海 健太さん(修士2年)
 大規模な現場を管理するためのさまざまな工夫と、最先端の建築技術を学生のうちに見学できたことに感謝します。

 福井 遼さん(修士2年)

 トライスター型の珍しい建物の躯体から内装までの施工段階を順を追って見る機会をいただき勉強になった。

 宮城 衛さん(修士1年)
 緻密な工程管理によって柱や梁などの部材の一つひとつから大規模な建築になることが見学を通して実感できた。

 横田 篤さん(修士1年)
 鹿島のBIM運用を進行中の現場を通してみることでBIMの有効な利用と実情について学ぶことができた。

 関根 聡さん(修士1年)

 iPadによる情報交換、作業員の体調を考えた設備など、安全かつ働きやすい環境を積極的に整えていた。

 洲永 力さん(修士1年)
 東京オリンピックの開催で大きく姿を変える地域で工事中の建物を見学できてとても刺激的でした。

 王 徳娟さん(修士1年)
 BIMの3Dモデルは現場で視覚的に確認可能な部分が増え、的確な建設につながる。

 李 静野さん(修士1年)
 BIMの3Dモデルは従来の2D図面より精度が向上し、複雑なダクトや配線を同じ図面に表示できることが分かった。

 門川 弦太さん(修士1年)
 周辺住民の粉塵などへの指摘に現場見学で対応したり、ゴミの分別に専任作業者を置いたり環境への配慮を感じた。

 高木 奨平さん(修士1年)
 騒音や粉塵などの周辺環境への配慮、居住者との交流によって工事敷地の外へ発信していることに感銘を受けた。

 高橋 拓海さん(修士1年)
 大規模現場の管理や施工技術、工程の組み方など普段の授業などでは学べないことを見学を通して学べた。

 安田 陽さん(修士1年)

 既存の解体作業を近隣住民に見学してもらうことは、体験のイベントになる新しい試みではないだろうか。

 大場 拓朗さん(修士1年)
 施工技術の緻密さを一番に感じ、各部の納まりだけでなく仮設などで技能者に対する配慮が随所に垣間見えた。

【工事概要】
▽工事名称=勝どき五丁目地区第一種市街地再開発事業施設建築物等新築工事
▽発注者=勝どき五丁目地区市街地再開発組合(参加組合員=鹿島、三井不動産レジデンシャル、三菱地所レジデンス、住友商事、野村不動産)
▽コンサルタント=都市ぷろ計画事務所
▽設計=鹿島
▽監理=佐藤総合計画
▽施工=鹿島
▽全体工期=2012年10月9日-16年12月27日
 〈B-1街区〉
▽敷地面積=1万0878㎡
▽建築面積=5915㎡
▽延べ床面積=16万1697㎡
▽最高高さ=178m
▽構造=RC一部S造
▽階数=地下2階地上53階建て、塔屋1層
▽主要用途=共同住宅(1420戸)、店舗(13区画)、公共施設
▽工期=13年9月4日-16年12月27日
 〈B-2街区〉
▽敷地面積=851㎡
▽建築面積=359㎡
▽延べ床面積=1161㎡
▽最高高さ=21.9m
▽構造=RC造
▽階数=5階建て、塔屋1層
▽主要用途=事務所・寄宿舎
▽工期=13年3月25日-14年6月30日
 〈A街区〉
▽敷地面積=1343㎡
▽建築面積=598㎡
▽延べ床面積=2105㎡
▽最高高さ=23.78m
▽構造=RC造
▽階数=6階
▽主要用途=共同住宅(18戸)、公益施設
▽工期=15年7月21日-16年10月20日
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