2015/07/29

【現場最前線】求めたのは患者、治療側双方の快適さ あけぼの病院移転建替工事

鹿島が設計施工を担った、あけぼの病院移転建替工事(東京都町田市)が完成し、8月に開院を迎える。同社建築設計本部建築設計統括グループ(医療統括)医療・福祉ナレッジマネージャーの星野大道チーフアーキテクトは「患者や医療従事者が求める日常生活空間や医療空間などの環境性能をエビデンスを伴う技術で実現した」と胸を張る。その出来栄えに、施主である医療法人社団三友会の南郷俊明理事長も「理想とする医療施設であり、100%満足している」と語る。開院前の病院を訪れ、導入技術をリポートする。

 あけぼの病院移転建替工事は、3つに分散している病院・健診機能を新病院棟に集約し、新病院棟に隣接する既存建物を渡り廊下で結び、管理部門と新事業用スペースに有効利用するもの。規模はS造5階建て塔屋1層延べ1万0391㎡。建設地は町田市中町1-11-11。敷地面積は4446㎡で、うち建築面積は3135㎡。

積極的に昼光を採り入れた病室
病棟(4、5階)に足を踏み入れた第一印象は「とにかく明るい」の一言。通常、北側か南側のどちらか一方に設けられる食堂・デイルームを分散し、四方から昼光を導入することで共用部の照度を十分に確保している。日中の暴露照度が高い方が睡眠効率も良いため、生体リズムを整え、質の良い睡眠をとることができる環境を実現した。
 病室も立面からではなく、室内側から必要な窓面デザインを検討。病室特有のベッドごとのキュービクルカーテン位置も考慮した上で昼光導入のための欄間と、廊下側のベッドの照度を確保するライトシェルフを設置した。欄間部分を常時開放することで積極的に昼光を導入している。
 さらに、夏季の送風による涼感と冬季の室温温度ムラを解消する個別循環空調、病室界壁の開口を最小限にすることで設備のフレキシブル性と界壁の防火・遮音性能を向上するメディカルコンソールなど睡眠向上技術を積極的に採用している。

リラックス空間を実現した透析室
新病院棟は国内最大級規模となる142床の透析施設を2階の1フロアにまとめ、透析室1は、1室122床と多くの患者が利用。透析は2日に1度、1回3、4時間と多くの時間を過ごすため、治療エリアは間接照明による落ち着いた光環境とし、自然光よりも緩やかなサーカディアンリズムに基づく調光・調色で生体リズムに沿った変化が加えられるよう工夫した。主要動線とスタッフエリアには、北側の天窓からやわらかな昼光を採り入れている。
 通路上部からの空調吹き出しと患者頭部側からの吸い込みでドラフト感を感じさせない気流制御も実現。木目調仕上げと壁面タイルで落ち着いたインテリアとし、医療機器・器具から発せられる音を気にせず、患者がリラックスできるよう、ベッドエリアには天井吸音材を配している。
 重症患者用の透析室2では、より患者に優しい放射冷暖房システムを導入。穴の開いた機器を利用して吸音効果を付加し、ベッド間に設置するカーテンとともに吸音効果を高めている。感染やオーバーナイト、重傷度に伴うさまざまな利用が想定される透析室3-6の個室には、この機器にLED(発光ダイオード)の調光照明を付加した多機能ユニットを開発して採用した。
 このほか、3階の手術室には、東埼玉総合病院(埼玉県幸手市)に次いで2例目となる新空調システム「KVFS(カジマ ヴァリアント フロー システム)」を導入し、患者近傍の低温化防止と術者(執刀医)の暑熱感緩和を両立。1階の外来は、スタッフエリアと患者エリアを明確に区分し、外来患者と健診来院者も完全に分離する一方、画像診断、検査、外来、健診機能が重複する部門のスタッフエリアを供用とすることで効率化を図っている。
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