2015/05/29

【熱中症対策】水、お茶だけでは危険! 効果的な水分補給は? 平山晃康日大病院教授と戸田建設安全部長に聞く

夏、建設現場の前を通りかかると、現場作業員がたくさんの水やお茶、炭酸飲料を買ってくる姿を目にする。大量に汗をかいたための水分補給だろうが、熱中症対策に詳しい日本大学病院の平山晃康脳神経外科教授は、過剰な水分摂取は低ナトリウム血症やけいれんを引き起こし、重症では死に至る「水中毒」になってしまう恐れがあると指摘する。そうなる前に日ごろの水分補給時には、水と同時に塩分をとることが推奨されるが、現場での水分補給への対応はさまざまな状況だ。一方、建設会社でも熱中症対策に力を入れている。戸田建設では現場での施設整備に加え、適切な水分補給の仕方を指導することで、調子が悪いと訴える作業員数を大幅に低減させた。建設現場での適切な水分補給のあり方を、平山教授と、やはり熱中症対策に詳しい同社東京支店建築安全部の伊原廣和部長に語り合ってもらった。
◆水分と塩分の同時摂取が重要――水分不足状態で飲み分け肝要

 伊原 夏場の建設作業というのは、非常に高温多湿の中で行わなければならないし、建屋が構築されるまでは太陽を避けられない。また、作業環境というのは現場の進行度合いによって変わってきます。建物が上がってくると、空調の効かないガラス張りの中、室温50度といった環境の中での作業となります。ですから、熱中症対策が必要になる時期になると大変な思いをします。
 当社では現場内にミスト噴霧、扇風機、製氷機、ウォータークーラーなどのいろいろな施設や休憩所の空調機を整備したり、職員や作業員に熱中症対策の教育指導を行った結果、調子の悪くなった作業員数を大幅に減らすことができました。水分のとり方も、作業前にはアイソトニック(等浸透圧)のものを、汗をかき出したらハイポトニック(低浸透圧)のものを飲むよう指導しています。最近はWBGT(暑さ指数)30近くなるとナトリウム低めの経口補水液、体調不良者を病院に連れて行く時は、同じ経口補水液でも高濃度のものを飲ませながら行ってくれと言っていますし、今、現場には冷蔵庫に常備させています。現場は作業場所によって状況が違いますから、気温だけでなく、あくまでWBGTの指数に応じて対応してほしいと要請しています。
 休憩・水分も午前10時と午後3時にだけではなく、WBGTの指数によっては1時間ごとに休憩を取らせたり、1時間に数回の給水補給も実行させています。朝ご飯は大切だと言っているのですが、食べられない世代が多くなってきました。バナナが効果的だと聞いて、朝や休憩時に食べさせるようにしています。ブドウ糖とカリウムが豊富で、体で吸収される時には水分子をいっしょに取り込むといいという考えからです。炎天下で作業する鳶工や鉄筋工は、厳しい作業環境ですから空調服も導入しました。
 平山 現場で今、一番疑問に思われることは何ですか。
 伊原 いろいろなものが出てきて、飲み過ぎると逆に糖分や塩分の過剰摂取で、体に悪影響を及ぼすものがあるのではないかということです。
 平山 まず、基本的に水だけではダメです。特に汗をかいて(血液が)濃縮している状態で水を飲むと、体内のナトリウム濃度が薄まって、かえって状態が悪くなります。水だけ勧めるのは間違いです。水分は塩分とともに摂取するのが大切なんです。黒部ダムの工事では、水を飲みながら塩をなめました。それをやりだしてから、具合の悪くなる人が減りました。暑いところや風通しの悪いところで働く人は、塩を取ることによって、十分なナトリウムをとっているのです。
 伊原 朝の味噌汁とごはん、梅干しというのは、夏にはいいわけですね。
 平山 夏にいっぱい汗をかくと、水と塩が抜けるので、いい組み合わせです。水だけを飲むと体内のナトリウム濃度が薄まるので、その時にどうなるかというと、また尿が出るんです。頭の中枢が察知して、急にナトリウム濃度が下がったら、これは水分が多いんだと判断して、尿量が増えてしまうというパターンになります。だから、ナトリウムを含めたミネラルを保つということが必要なんです。ですから、水分補給も通常の時に飲むもの、水分不足の時に飲むもの、水分不足が著しく進んだ時に飲むものは違うということを覚えられるといいと思います。ただ、基本的には水だけというのは避けた方がいい。もし水分不足が著しく進んだ人に水を飲ませると、もっと体内のナトリウム濃度のバランスが悪くなります。

◆水分だけでは逆効果に 尿の色などでチェック

 伊原 今の現場の作業員は、自動販売機でだいたい500mmリットルのペットボトルを買いますね。
 平山 塩分をとらずに水だけだったら、かえって悪くなります。お茶もナトリウムは入っていませんから、お茶を飲みながら梅干しを食べるとか、塩をなめるというのなら、まだいいですけど、お茶で気を付けなきゃならないのはカフェインが入っていることなんです。カフェインが入っていると尿量が増えるんです。そうすると尿が出てしまう。そういう時には、ナトリウムを中心としたミネラルを含んだ、冷たいものを飲んだ方がいいんです。そうすると胃の中での冷却効果があるんです。
 伊原 常温ではなく、クーラーボックスを持ち込んで冷たくして飲んだ方がいいと。
 平山 われわれは体温を下げる時に、胃に4度とか5度とかの冷たい水を入れるんです。そうすると下がりやすい。外からも冷やすのだけど、中からも冷やすんです。

戸田建設安全部長 伊原廣和氏
伊原 若い人たちは炭酸飲料を飲みますね。水分不足が進んで問題となった作業員に、何を飲んでいたかと聞くと、コーラとかお茶と答えます。
 平山 炭酸飲料を飲むのはいいのですが、ナトリウムはほとんど入っていません。そこにナトリウムをとるという意識がないからです。ベテランの人たちは、先輩のやっていることを見ていて、理由は分からないが、具合が悪くならないために、塩をなめながら水を飲むということをやってきたわけです。それを知らない人は調子が悪くなることになる。
 伊原 私たちが入社した30数年前は、塩タブという塩の錠剤を食べるんですが、どこまでかということが分からずに、途中で吐き出してしまうことがありました。程度が自分では調整できなくて、非常に困っていたということがありました。
 平山 基本的には尿の色を見ます。尿の色が濃くなって茶色っぽくなりますが、それは水分不足が進んだ状態なんですね。あと、目安となるのはツルゴールといって、皮膚を引っ張って、ぱっと離した時に戻るかどうかです。戻らなければ水分不足が進み、カラカラになっているという判断になります。そういうことを指標にするということがひとつと、あとは体温を測るという方法があります。同じ経口補水液でも、ナトリウム高めの経口補水液とナトリウム低めの経口補水液ではナトリウムの量が違うので、水分不足が著しく進んだ時はナトリウム高めの経口補水液、水分不足になる前や軽い時はナトリウム低めの経口補水液の方がいい。ただ、ナトリウム高めの経口補水液はナトリウムが多いので、普通の時に飲むと血圧が上がる可能性があります。
 伊原 例えばナトリウム低めの経口補水液だと、WBGT指数で30とか31とかになった時に飲むようにするということですか。

◆普段から意識してこまめに水分補給

 平山 いや、そういう状況になる前から飲んでいた方がいい。
 伊原 スポーツドリンクだと糖分が多く、人によっては体に影響があるのではないかと思うのですが。

平山晃康日大病院教授
平山 ナトリウム低めの経口補水液は100ccあたり7kcalで、スポーツドリンクの3分の1程度しかカロリーがないんです。これを飲むということは、ブドウ糖や炭水化物系を過剰にとってしまった場合でも、経口補水液をとることは意味があります。
 伊原 糖が少なくナトリウムが多いということですね。スポーツドリンクを飲んでいると、口の中が糖分でベタベタします。
 平山 スポーツドリンクはカロリー自体、ものすごく多いということです。テレビで水分補給ということをいってますが、それだと水だけだと勘違いされる。ミネラルも一緒にとるということを啓蒙しなければいけません。
 伊原 仕事始めや休憩時には、必ず経口補水液を飲ませるということですね。
 平山 そうですね。体内のナトリウム量が下がりすぎると意識をなくすことがあり、そうなったら病院行きです。そうなる前に、経口補水液を2時間おき、暑い時はこまめに飲むのがいい。それと、高齢者は喉が渇きにくくなっています。喉が乾かなくても2時間おきに飲むのが望ましいですね。できれば、いつでも飲める状態にしておいてほしいと思います。
 伊原 自覚症状がなくても飲むということですね。仕事終わりに近くなると、うまいビールを飲みたいといって、水分補給をがまんする人たちもいますが、それは絶対に止めさせた方がいい。とにかく1時間に2、3回は経口補水液を口に含むということにするのがいいわけですね。
 平山 それも冷えている方がいい。本人は気付いていないのでしょうが、呼気で体から水分は出て行っています。トイレの回数や尿の量・色、皮膚が戻る戻らないといったチェックをきちんとすることです。
 伊原 空調服の着用と正しい水分補給をいっしょにやる。そして朝食は必ずとるように指導を続けていこうと思います。
 平山 経口補水液は、熱中症対策には非常に役に立つものです。
 伊原 水分は十分足りていると思っても、定期的に経口補水液を口に含むということを、普段どおりにやっていくということが大切なのだということが分かりました。本日は大変参考になりました。ありがとうございました。

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