2015/03/19

【シーラカンスK&H】JIA日本建築大賞「山鹿小学校」 地産材料、地元職人のやりがい引き出す設計

シーラカンスK&Hの「山鹿市立山鹿小学校」がJIA日本建築大賞を受賞した。審査では、建築としてのデザインのみならず、地元の木材活用や施設開放など建築が地域社会に与えた影響が高い評価を受けた。学校建築に求められる機能が多様化する中で、地域住民の力をいかにして引き出し、地域文化を教育に取り入れたのか。設計した工藤和美=写真左=、堀場弘両氏に聞いた。

 熊本県山鹿市は豊富な木材資源を有する地域だ。そのため、設計当初から「地域の木材を活用し、現代の学校建築のニーズに合わせた木造建築にしたいと考えていた」と工藤氏は振り返る。コストを抑えるために地産材の中でも手に入りやすい細く短い105角の材を中心に使用し、約8mのスパンを飛ばすデザイン実現のための検討を重ねた。「お金をかけたら良い建築になるわけではない。無駄なものを削ぎ落としていく中で、建築として求められる優先順位が明確化した」と堀場氏。

繊細な木構造による伸びやかな空間(撮影:シーラカンスK&H)
施工に際しては、木造建築に関する多くのノウハウを持つ地元大工との協働が大きな力を発揮した。これまでにない大規模木造建築だったため、当初は「これだけ細い材で本当に建てられるのか半信半疑だった」(工藤氏)というが、打ち合わせを重ねる中で設計への理解を得てデザインと構造と施工性の最適化を進めた。堀場氏は「(日本では)木造建築に対して『古い』イメージがあるが、近年では接着・カットなど加工機の精度も上がり、ハイテク化が進んでいる。今後は建築家にとって挑戦しがいのある分野になり得る」とみる。
 地元大工の協力を得た結果、細部にまでこだわった技術力による建築の納まりやデザインのさらなる向上につながった。
 堀場氏は「高い技術力を有しながら、これまでその力を発揮する機会が少なかった。その技術をそのまま生かせる設計をすることが、施工者のやりがいやさらなる技術の提案につながった」と話す。工藤氏も「その地域だからできる大規模木造のやり方がある。建築家には適切な手法を選び、施工者の力を引き出す設計を考える責任がある」と指摘する。

低層の校舎が連なる外観(撮影:淺川敏)
地産材料の活用と地元職人の協力によって工事を進めたこの小学校は、地域住民の大きな歓迎とともに竣工を迎えた。「僕らの力というより、地域の力がうまく働いて評価された」(堀場氏)という言葉どおり、現在は教育施設としての機能だけでなく、地元の祭りの場としても開放されている。「祭りは学校と地域社会が一体となって開催しており、地域住民の多くが学校に入る機会がある。生活に密着した身近な建築として、これからさらに町と学校が一体化していってもらいたい」(工藤氏)と期待を込める。
 今回の受賞を通じて、工藤氏は「学校建築でも良い建築ができることを示すことができた。良い建築をつくろうとする人たちの励みになってほしい。良い建築には生活を豊かにする力があり、自分自身の生活にも良い環境を与えてくれるということを知ってもらいたい」と語る。その上で、建築が完成すれば、その魅力や価値は伝わるが、「良い建築とするためには、完成前までの段階でどれだけの人々を巻き込めるかが問われている」と強調する。
 堀場氏も「単に新しさを求めるのではなく、良い建築とは何かを考え、追求することが大切だ。そのための方法として、建築家が社会の中に入っていくことが重要になっている」との考えを示す。
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