2014/12/13

【次代を担う】「QCDSE」徹底を実感「ららぽーと富士見」現場 工学院大学・萩原由佳

広域集客型の大規模商業施設、いわゆるリージョナル型ショッピングセンターとなる「ららぽーと富士見」の建設工事が最盛期を迎えている。場所は埼玉県南東部の富士見市内。東京・池袋を起点とする東武東上線沿線に位置し、首都圏ベッドタウンとして発展を続けている。沿線最大級となる施設規模は延べ床面積約18万5000㎡。隣接して市役所や市民文化会館も立地し、都市機能の一層の集積が計画されている。施設整備のコンセプトは「都会と自然との接点」。設計施工を担当する安藤ハザマの現場作業所(松野聡統括所長、渡邊勝則所長)を工学院大学建築学部建築学科の建築生産分野・環境材料学研究室(田村研究室)の学生6人が訪問。職員約50人、作業員約1200人が働く現場を萩原由佳さんが代表リポートする。

 建設業界は現在、職人不足と言われている。元請けであるゼネコンは安全を最優先に、総合的な「ひと・もの・こと」の品質を確保しながら時間(工程)とコスト(建設費)を適正に保てるように努めなくてはならないが、見学させていただいた(仮称)ららぽーと富士見新築工事は、材料施工関係の授業で学んできた「QCDSE(品質・コスト・工程・安全・環境)」が実際の現場で時代の変化に合わせて改善、運用されていることを深く実感した現場だった。

◆躯体と同時に大型設備
 建築を学び始めたころは、建設中の建物の外周には仮設足場があり、建物の外観は完成直前まで見ることができないイメージをもっていた。しかし、この現場は低層ゆえだろうが、ほぼ無足場の状態で施工されており、高所作業車が積極的に用いられていた。こうした工夫で確実に、人件費や仮設工事費、工期を抑えることができると感じた。
 また、外壁にはALC板が多く用いられ、同じ寸法のもので合理的でありながらも表面色を工夫したりしていた。その背景にあるのは、内外装デザイン全体を利用者の視点を大切にする設計の考え方であり、工事の最後まで適切におさめていく取り組みが行われていたのが印象深かった。
 鉄筋工の減少に対応するため、基礎配筋を地組みするといった工夫も行われていたが、一番驚いたのは大型設備であるエスカレーターが躯体工事と同時に内部に搬入、設置されていることだった。

先行搬入し設置されたエスカレーター
設備機器などについては、躯体が立ち上がった後に運び込んで設置すると考えていたが、同時に進めることで工期や労務を低減することができることに気付かされるとともに、初期段階から施工計画をさまざまな立場の人と一緒になり綿密に検討しているからこそできることだと感じ入った。

◆安全への真摯さ実感
 一方、見学して納得したのは、さまざまな作業が同時に行われているからこそ安全管理の重要性が際立つということである。安全性に問題があれば工事はストップする可能性があり、そのことで「建設業は事故が生じやすい」というイメージにより若手技術者が現場作業から足が遠のくことも考えられる。
 そこで、事故を未然に防ぐため、この現場では安藤ハザマとして独自にまとめた、実際の現場でどのような建設事故が多いかの分析結果を作業者の目に付く場所に掲示していたのは感心し、安全に対する真摯(しんし)さを実感した。また、危険予知活動表を作業者自身で書くことも実践しており、安全に対する意識徹底に努めていたのは新鮮に感じた。

◆行き届いた心配り
 東日本大震災の災害を経験し、さまざまな観点で建築基準法が改正され、施工における品質や安全の管理はより厳しくなった。実際、ここの現場でも天井板やエレベーターの取り付けに関して、改正に先駆けて、将来の災害発生を見据えて対応変更したという。
 例えば、この建設地域でもことし1、2月にかけて、想定量を超えた大雪に見舞われた。気象変化は今後も可能性が大きく、そうした変化への対応は欠かせない。降雪に関しては具体的に、明るい商業空間とするために設置されるトップライトが突発的な大雪にも耐えられるよう強化したという。
 さらに、近隣には川が流れ田んぼが広がり、土地が低い状況であることから雨水貯水槽を多数設けている。地盤の種類や強さにばらつきがあったため、ボーリング調査を行った上で杭を880本打ち込むなどの対策も積極的に施したという。風土や土地を含めた環境条件をしっかりと把握しなくてはいけないことを改めて学んだ。

立体駐車場の外壁も鮮やかな色づかい
また、現状だけでなく地域の将来のことも見据え、敷地や壁面の緑化だけでなく、近隣住民に向けた公園も併設されるという。さらにメガソーラーやLED(発光ダイオード)、電気自動車のスタンドなど自然エネルギー利用を促進し、新しい仕組みを積極的に取り入れるそうだ。
 この建物は商業施設であることから、幅広い年齢の方が使うからこそバリアフリーを徹底するのはもちろんのこと、床材料など利用者の行動も踏まえ選定している。
 また、吹き抜け部分は温かい空気が上に行き、上部と下部で温度差が生じるため、一部床暖房を取り入れているが、これなど空間のバリアーを極力、減らす大切な工夫であると感じた。
 さらに、この施設では訪ねて「楽しい」と感じるよう、天井のデザインにまでこだわっていた。トイレの壁や床などもデザインコンセプトをフロアごとに変化させるなど細かな心配りが行き届いており、利用者目線としては楽しめる要素の1つとなることも実感できた。

◆同じ目標に向かい進む
 今回の現場見学を通じて改めて、1つの建物をつくるために数多くの専門家や技術者が関わり、利用者の目線や快適性を意識して、同じ目標に向かって作業を進めていることを実感した。
 そして何より、この安藤ハザマの現場で強く感じたことは、元請けと協力会社の皆さまが一緒に作業を行おうとする雰囲気が築かれ、お互いへの配慮や「温かさ」が伝わってきたことである。職層や立場の違いにかかわらず笑顔であいさつを交わし、信頼関係があるからこそ築かれる雰囲気であると感じた。

後列右から渡邊勝則所長、野村奈緒工事担当、鳥井大輔副所長、吉田浩也工事課長、大澤一誠設備長
中列右端・宮本一郎設計室長
最後になるが、来年からは私も施工管理担当として現場作業所で勤務することになっている。現場作業を担う諸先輩や作業員の方々と協力しあいながら、最後には建物を使用する人に笑顔を与えられるような建物を築きたい。

田村雅紀准教授
【引率雑感/女性卒業生の姿に感無量】
 工学院大学建築学部建築学科 田村雅紀准教授 延べ床面積が約18万㎡もある大型ショッピングモールの建設という大プロジェクトは、この時代に関東で人口集中が生じた都市ができ(場)、そこで働き・利用する状況(人)が想像できたからこそ実施できたものといえるが、その巨大なフィールドで数々の最先端の技術と施工の仕組みをこれからの担い手と間近に見られたことに多くの感謝をしたい。
 また、見学当日は、現場作業所の松野聡統括所長、渡邊勝則所長、佐藤光典副所長を始めとする幹部の方々に丁寧に概要や現状説明をしていただくなど、お世話になり、お礼を申し上げたい。
 そして、この現場を仕切る現場ウーマンの野村奈緒さんは私の研究室の卒業生であるが、彼女が所長を始め皆さまからの厚い信頼のもと笑顔と安心を与えながら働いている姿を見られたことは、過去の指導者として感無量の思いであった。
 このプロジェクトが来春の竣工を迎えるのが楽しみである。

【参加者の声】
 萩原由佳さん(4年) 笑顔で温かい雰囲気があるなか、今の時代に適した施工管理の技術を知ることができ勉強になりました。
 岡健太郎さん(4年) 数十年という建物の生涯で重要なプロセスである建設工事を間近で見ることができ、発見と驚きの連続でした。
 稲垣知大さん(3年) 大きな現場のため、効率的に作業を行うための工夫が随所にあり、大変勉強になりました。
 柏井翔太さん(3年) 温かみのある現場の雰囲気が一番印象的で、技術的な面でもたくさんのことを学ぶことができました。
 河野亜沙子さん(3年) 現場で働く大勢の人たちが、お互いの仕事の状況を共有するための仕組みを知ることができるよい経験でした。
 杉山恵太さん(3年) さまざまな場所で作業をしているため安全の大切さを感じ、現場にいる時間が短く感じるほど充実しました。

【工事概要】
▽工事名称=(仮称)ららぽーと富士見新築工事
▽所在地=埼玉県富士見市山室1-1259-1ほか
▽開発区域面積=約17万7000㎡
▽建築敷地面積=約15万2000㎡
▽構造規模=S造4階建て(店舗3階建て)、駐車場棟S造5階建て
▽延べ床面積=約18万5000㎡
▽店舗面積=約8万㎡
▽店舗数=約300店舗
▽駐車台数=約4600台
▽環境デザイン=石本建築事務所
▽設計施工=安藤ハザマ
▽工期=2013年10月25日-2015年春
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