2014/11/29

【次代を担う】新鉄鋼ビル建替計画(仮称)佳境を迎えた現場 首都大学東京・寺村大真

戦後の高層オフィスビルの草分けとして知られる第1鉄鋼ビルとそれに隣接していた第2鉄鋼ビルを建て替えるプロジェクトが佳境を迎えている。建設地はJR東京駅八重洲北口に隣接し、外堀通りと永代通りに接する。その(仮称)新鉄鋼ビル建替計画現場を首都大学東京都市環境学部建築都市コースの権藤研究室、芝浦工業大学工学部建築工学科の蟹澤研究室と志手研究室の学生計9人が訪ねた。リポーターは権藤研の寺村大真さん(4年生)。

◆朝7時30分八重洲集合
 引率の権藤先生を含む参加者計10人が朝7時30分、ゲート前に集まった。8時からはラジオ体操にも参加した。作業員さんが350人一堂に並んだ姿は迫力があり、整列する前の肩もみは新鮮だった。

ビル建設の敷地はほぼ長方形で、約200m×40mと細長い。さらに、ぎりぎりまで建物が建つため、敷地に余裕がなく、朝礼の会場も施工中のビルの3階だった。
 朝礼で面白かったのは「すみずみパトロール」、ネットをきちんと復旧するといった指摘などで、当番の職長らしき人が写真と手書きのボードで周知していた。良い取り組みは、「GOOD JOB」と報告されていた。その後もKY(危険予知)確認、グループに分かれての身振り手振りによる現場KY運動が続き、安全への意識が徹底されていた。

◆風通しの良い現場
 朝礼の後、事務所で工事の概要を聞いた。その後、事務所を出て1時間程度現場を見学し、さらに事務所に戻って30分ほど質問をすることができた。全体を通じて印象に残ったのは、元請のゼネコンが専門工事業者の作業員にさまざまな配慮をしていることだ。

オフィス棟の6階。合うとフレーム構造を利用し、無柱の開放的な空間を提供する
また、昨今の作業員不足などの影響もあるとの説明だったが、この現場では、作業員の数は同じでも1職種あたりの専門工事業者の数を増やすことで、専門工事業者の負担が大きくならないように配慮していた。
 これまでに講義などで他の施工現場を見学したことがあるが、この現場は全体に雰囲気が明るいように感じた。エレベーターの中に所長のポスターが貼ってあり、そこには「風通しの良い現場」と書かれていたし、実際にそう感じた。意味は違うが、上の階はカーテンウォールの施工が始まる前で、風通しが良すぎて寒いくらいだった。
 ポスターの主旨である人間関係の風通しをよくするための取り組みについて聞くと、例えば「おにぎり会」と呼ぶ催しを2週間に1回開いているという。職長4、5人と所長始めゼネコン職員4、5人で、おにぎりとお味噌汁とお総菜を食べながらざっくばらんに話すのだそうだ。
 また、この作業所の所長や副所長は、前の現場と同じメンバーで、専門工事業者もそのときと同じ会社が多く、意思疎通がよく図られているし、日常から「おにぎり会」のような取り組みを行うことで、さらに結束を深めていると感じた。

◆大迫力の地下工事
 見学では、免震アイソレーターやCFT(コンクリート充填鋼管構造)構真柱など、珍しい技術も直接見ることができたが、最も印象に残ったのは地下工事だった。
 その中で、逆打ちで地下3、4階(ピット)を掘削しているところまで見学することができたのは感動した。地下3階床がまだできていないため、耐圧盤から高さ10mはあるような地下空間にCFTやSRCの構真柱、SMWの山留め壁が並んだ姿は純粋に迫力があった。土をどのように掻き出すのか興味があったが、バケットで何回も持ち上げていて、地道な作業だとも感じた。

PCの外周庇取り付け
地上では、PCの外周庇を取り付けるところを見学できた。こうした工業化も作業員不足対策の面があるそうだ。無線でタワークレーンのオペレーターに連絡しながら、少しずつ調整してぴったり組み合わせており、5、6人の作業員が役割分担をきちんと決めて作業をしている姿が印象的だった。
 地上、地下に共通して、“ダメ工事”や“ダメ穴”(ダメ=後施工)など、建物が完成した後は分からなくなる個所が多いのも印象に残った。階高が違うと、天井工事の仮設が変わってしまうといった話も聞き、ダメ工事や仮設といった見えなくなる部分にも力が注がれていたのは、実地に現場を見学させてもらっての新鮮な発見だった。

◆見学を終えて
 敷地が狭いこともあり、現場事務所は細長い5階建てだった。話を聞いた中で印象に残ったのは工程管理の話だ。工程を単純に積み上げるととても間に合わないので、受電や先行床躯体構築をマイルストーンとして管理し、工程を厳守すると聞き、これから卒業論文や卒業設計のスケジュール管理にも取り入れたいと思った。
 工程を守る苦労では、意外なことも聞けた。山口から船で運ばれてくる鉄骨が台風で接岸できなかったという話や、東京駅が近いためかデモが多く、搬入が滞る時もあるという話は、建設現場の意外な一面を見た気がした。

前列左から堀江誠二郎副所長、二見賢仁作業所長、権藤准教授、坂本雅之統括所長、新倉直樹副所長
当然ながら、品質や安全、工程などさまざまな面で工夫をしながら施工作業は進んでいく。大学生が見学にやってきて対応に追われつつ、時には職長とおにぎりを食べながら作業員さんたちとの人間関係にまで気を遣う。しかも、そうした苦労はダメ工事のように、建物が完成したあとは影も形もなくなる。僕たち学生であれば投げ出したくなるようなことばかりだと思う。現場見学全体を通じて感じた明るさや風通しの良さは、くよくよしても仕方ないという良い意味で吹っ切れたものかもしれないと感じた。

◆研究室紹介/テーマは“その他”

 首都大学東京都市環境学部建築都市コース 権藤智之准教授
 当研究室の対象は構法・生産である。構法・生産は建築の仕組みとも言えるが、別の見方をすれば建築学の隙間である。意匠でも構造でも環境でも計画でも歴史でもない、その他全てが構法・生産である。ただ、この“その他”がないと建築は成り立たないと思う。その他がテーマであるため、自然と各自のテーマはバラバラになる。
 学生は面白いと思ったテーマを調べるのが一番と思う。嫌々調べたことは結果が予想できる。面白いと思ったことを突っ込んで調べるから予想外の結果が出る。現場の話も予想外の内容が多くて面白い。それはこちらの興味と現場の経験の幸せな巡り合わせだと思う。

◆工事概要
▽工事名称=(仮称)新鉄鋼ビル建替計画
▽工事場所=東京都千代田区丸の内1-8-2
▽発注者=鉄鋼ビルディング
▽設計・監理=三菱地所設計
▽施工=大成建設・増岡組建設共同企業体
▽工期=2012年12月1日-15年10月31日(地下解体・新築)
▽敷地面積=7399.67㎡
▽建築面積=5548.80㎡
▽延べ面積=11万6555.38㎡
▽構造=S+SRC造(オフィス棟:地下3階地上26階建て塔屋1層、にぎわい施設棟:地下3階地上20階建て塔屋1層)
▽用途=事務所、ホテル、店舗、駐車場

◆参加者の声
・首都大学東京4年 吉川來春さん
朝礼のすみずみパトロールで注意喚起や良い例となった作業員さんに直接声をかけていたところが印象的だった。
・首都大学東京4年 渡辺千晴さん 
所長さんのメッセージが掲示されていたり、親睦会が開かれていたりと、現場のイメージが変わった。
・首都大学東京4年 寺村大真さん 
地下への搬入搬出のために“ダメ工事”が行われていて、地下に地上とクレーンが稼働しているのが印象的だった。
・芝浦工業大学4年 高辻慶太さん 
基礎やPC部材など今回の現場の特色を解説とともに見学し、工事の過程を学んだ。とても楽しかった。
・芝浦工業大学3年 菊池もものさん 
初の大きな現場見学だったが、私の中で現場はあまり綺麗なイメージが無かったので、綺麗さに驚いた。
・芝浦工業大学3年 桑原康さん 
今回の現場見学では朝礼から参加し、現場の隅々まで安全を考慮して管理が徹底されていると感じた。
・芝浦工業大学3年 布施朋美さん 
女性は大きな現場に配属されるが、他の会社より管理の職種に権限があり、責任感もあると聞いて心を惹かれた。
・芝浦工業大学4年 林晃士さん 
事故対策や作業員不足への対策など現場ならではの「生きた意見」を聞けて、大変勉強になった。
・芝浦工業大学3年 香川宏樹さん 現場仕事はきつい、汚い、危険の印象が強かったが、その印象を与えないような対策がとられていてとても感銘を受けた。

 ※このシリーズは、次世代と建設産業との架け橋をめざしています。
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