2014/11/01

【インタビュー】多様な人材を「働きやすい」ではなく「どう生かすか」 荒金雅子さん

人材不足を補うため、女性や高齢者の活用に力を入れる企業が増えている。グローバル化も加わり、ダイバーシティ(多様性)は今後、避けて通れないテーマになる。経営コンサルタント、クオリア(大阪市)の荒金雅子社長は、「いまの流れを見ると、働きやすいとか、いかに長く働けるかについては非常に熱心で制度もあります。しかし、その人たちが生かされ、お互いが時にぶつかり合いながら高め合う、そこのレベルにはまだ行き着いていません」と問題点を指摘する。
--ダイバーシティ経営とはどういうことでしょうか

 「多様な属性を持つ人材を、組織の成長に生かすことです。3つの分類でいうと、性別、年齢、国籍、障害の有無など人口統計学的なデモクラシック・ダイバーシティ、ライフスタイルや価値観、発想、アイデアなど目に見えないサイコグラフィック・ダイバーシティ、経験や知識、専門性などタスク・ダイバーシティがあります」
 「これまでは女性や外国人、障害者といった分かりやすい切り口で語られていましたが、最近は雇用形態の多様化も組織のマネジメントとして問題を複雑化しています。男女の別なく、どういうライフスタイルを選ぶかによってかかわり方が変わってきます。共働きであったり、介護が必要な家族がいれば、女性だけでなく男性でも仕事をする上で大きな課題になります。一口に多様性と言っても幅広いわけです」

--なぜそうした経営が必要ですか

 「わたしは日本の3大ダイバーシティとして、女性、グローバル、エイジを挙げています。エイジは年齢の多様性で、管理職のマネジメントスタイルと若い世代の価値観の断絶に近いギャップをどう取り扱うか、シニア世代をどう生かすかなどです。一番大事なことは、多様な人がいるという状態だけではだめで、多様な人たちが意見を出し、アイデアや発想をぶつけ合いながら、新しい価値を生み出すことです。これを知のシナジーと言い、これこそが多様性が必要な本質的な意義です」
 「気持ちよく働ける環境は、新しいものを生み出す土壌であって、単に仲良く、働きやすいだけではそこに花を咲かせることはできません。カルロス・ゴーン氏の言葉ですが、“ヘルシー・コンフリクト”-健全な対立・衝突が必要です。お互いが意見をぶつけ合い、時には不協和音を起こし、緊張感のある議論をしてその上に新しいものが出てくるのです」

--日本人には苦手な状況ですね

 「働きやすい環境をつくるだけでは、守りのダイバーシティでしかありません。攻めの、本当の意味で成果につながるダイバーシティはお互いが意見をぶつけ合う環境をつくることです。イノベーション(革新)を生み出すには、多様性があり、加えて質の高い関係性がなければいけないと言われています。質の高いということは仲が良い、信頼関係があるだけでなく、クリエイティブ・テンション(創造的な緊張)が必要です」
 「いま働いている人たちは十分に力を発揮しているでしょうか。社員の採用状況が厳しくなっているので、いまいる社員のポテンシャル(潜在能力)を最大限に引き出すことが重要ですが、十分にできていません。それをすることが結果として、優秀な人材を集めることにもつながります」

--女性の活用を促進する法案が今国会に提出されました

 「女性の活用問題は必要条件であっても、十分条件ではありません。多様性を生かす際、女性は試金石になります。組織の中で最も多いマイノリティー(少数派)で、最も潜在的な可能性を秘めているのが女性です。女性の力を生かせないで、ほかの多様性を生かすことは難しいのです。そこにアンテナが立っていないのに、ほかにアンテナを立てることができるでしょうか」

--これから取り組む企業にアドバイスを

 「トップのコミットメント(関与)は必須で、これなくしては難しいですね。管理職はみんな社長を見ていますから。また女性は敏感で、彼女たちが変わればそれを見て管理職も変わります。管理職の意識やスキルを変えないと、期待感が大きいだけに失速感も大きくなります。本気でやるなら、トップのコミットメントと戦略をきちんと考える必要があります」
 「特に効果が大きいのは中小企業です。社長の決断が即、行動に移せてインパクトも大きく、仕組みや制度をつくらなくても、運用で柔軟に対応できます。どの企業でも多様性を生かすことで、メリットはあります。やり始めると、途中でやめられません。やめると失敗で、やり続けた人だけが成功するからです」

◆横顔
 4年間の専業主婦を経て都市計画コンサルタント会社に入ったが、「女性が再就職するのはたいへん」と実感した。男女共同参画の施設建設に携わる中で、「女性が働きやすい社会にしたい」という思いから、働く女性を支援するNPO団体に参加した。企業など組織の多様性を生かすため、2006年にクオリアを設立。「一番の出発点は、自分自身が働きにくい」と感じたことだ。
 企業のとっかかりは目先の人材確保であっても、大事なことだと気付けば取り組みが進化すると指摘する。これでいいという到達点はなく、「終わりのない旅になる」という。
 主な著書は『多様性を活かすダイバーシティ経営 基礎編』、『同実践編』(日本規格協会)など。
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