2014/08/31

【亜炭鉱跡対策】巨大地震に備えよ! 陥没まねく亜炭坑跡を「限定充填工法」で対策

かつて亜炭の一大産地があった岐阜県はことし3月、資源エネルギー庁が実施する南海トラフ巨大地震亜炭鉱跡防災モデル事業の補助対象に選定された。発災が懸念されている南海トラフ巨大地震に備え、対象地区となった御嵩町や県、国が共同で取り組む亜炭鉱跡対策のモデル事業を追った。

 日本各地に埋蔵する亜炭は、江戸時代から1970年代まで燃料として盛んに採掘されてきたが、エネルギー革命などにより産業が衰退し、廃坑空洞が残された。東海3県では、亜炭廃坑の総面積は約3000haに及ぶと言われている。

事前調査で撮影された地下空洞
御嵩町と周辺地域では、戦前から戦後にかけて採掘された。深度50mほどの深い空洞は、地下水などで満たされており強い強度が確保されている。しかし、亜炭層が厚い空洞は、坑道の安定を保つために亜炭層のある部分を残柱として残す「残柱方式」を採用して掘る場合が多く、柱の劣化などで日常的に陥没が発生している。

◆県道初の陥没対策

 2011年3月の東日本大震災時には、70件以上の亜炭鉱跡が原因と見られる陥没事故が報告されており、中部でも南海トラフ巨大地震が発災すると同様の被害が発生することが懸念されている。

多治見白川線で進められている路面陥没対策
岐阜県は、ことし4月から大庭交差点で国道21号に直結する多治見白川線を対象に、飛島建設・栗山組(坂祝町)JVの施工で限定充填工法による路面陥没対策を進めている。県管理道路に路面陥没対策を施すのは、初めての試み。

同工法は、流動性を制御した端部材で柱列状に隔壁を形成し、流動性の高い中詰材で空洞天端部まで密に充填するもの。空洞が実際にどの程度広がりがあるのか分からない状態でも、対象とする場所を集中的に充填することで、重要な拠点の地盤を確実に強靱化できる。今回は施工が線状なので端部材のみを充填する。
 施工を担当する飛島建設の和田幸二郎作業所所長によると、「充填時に重要なことは、周囲の土質を考慮した適正な強度の地盤にすること。充填材の強度が高すぎると、開発する場合、基礎工に支障がでる場合がある。低すぎると充填の意味がない」と注意を促す。

◆「やりがいを感じる」

 工事に際し、延長1250mを対象としておおむね100m間隔で13カ所の調査孔(ボーリング径66mm)を施工し空洞の有無を判定。発注時は施工延長を670mに設定していたが、施工延長を約500mに特定し、充填孔(同径116mm、塩ビ管挿入の場合は径165mm)を当初予定していた84本から20本程度を削減する見通し。対面2車線の片側道路の中央路面に幅約50cmの素掘側溝を施し、角度調整できるロータリー・パーカッション・ボーリングマシンにより、車道空洞のセンターに充填孔を8mピッチで施工、充填孔より端部材を注入した。
 和田所長は「この工法は、土地区画整理事業の対象地区で実施することが多い。今回は既に人がいる場所での施工。誰のために行う工事なのかがはっきりしており、やりがいを感じる」と意気込みを見せた。

◆約44億円の基金創設

 岐阜県御嵩町がモデル事業に選定されたことを受け、ことし3月、県産業経済振興センター内に約44億円の基金が創設された。基金を活用して町が事業者として道路以外の調査や工事を発注する。事業期間は17年3月まで。
 町は、ことし4月から町役場や御嵩小学校、向陽中学校がある1期計画地区7haと、主に宅地で構成する2期計画地区12haで調査を実施。8月8日に公表した危険度判定結果によると、1期地区には震度6弱の地震により直ちに陥没するほど地盤のぜい弱性が高いレベル1地点判定が約2万2700㎡、直ちにではないが、震度6弱の地震により陥没危険性が高いレベル2地点判定が約1120㎡という結果が出た。これを受け、13日に工事を一般競争入札で公告。9月2日に入・開札する見込み。
 2期地区では4万7540㎡(51世帯)で調査し、3万7570㎡(42世帯)がレベル1と判定された。27日に工事を公告しており、9月8日まで参加申請書を受け付けている。
 また、国の動きとして中部地方整備局多治見砂防国道事務所が、8月上旬から御嵩町の御嵩、中、顔戸、伏見の4地区で、国道21号現道路面下の空洞調査を開始。10月まで調査を行い、第3四半期にも工事を発注する見通しだ。

7月に開かれた説明会
御嵩町は7月14日、町役場で工法の説明会を開いた。渡邊公夫町長は、「実際に陥没しなければ対策できず、危険性を理解しながらも野放しになっていた亜炭鉱跡で予防策をとれる体制が整った。全国の対策事業の手本となる成果を期待している」と強調した。
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