2014/05/15

【建築】働きを実感できる空間「明治安田生命新東陽町ビル」 竹中工務店の菅氏に聞く【記者コメ付き】

スロープでオフィス間の全フロアを徒歩で移動できる
1949年から始まった日本建築学会賞作品部門の歴史の中で、ゼネコン設計部単体の受賞としては51年に「日活国際会館」で小林利助氏(竹中工務店)、63年に「リッカー会館」で鹿島昭一氏・高瀬隼彦氏(鹿島)が受賞したのに続く3例目となった。半世紀ぶりの快挙を達成した竹中工務店の菅順二設計部長が今回の作品で目指したのは、均質化したオフィス空間で失われた「働く人々の心のよりどころとなる建築」だ。現代、そして未来のオフィスビルのあるべき姿とはなにか。菅部長に聞いた。
【執筆者からひとこと:このビルは、設計・施工で担えるゼネコンならではの視点が生かされている。竹中工務店の設計力を示すためにも、学会賞などへの作品応募には、会社として力を入れているという。今回の受賞は、こうした努力が実を結んだのだろう。
 受賞作「明治安田生命新東陽町ビル」は、竹中工務店東京本店から約500mほどの場所にある複合型オフィスビルだ。100m角の広大な執務空間の内部では40m角の吹き抜け空間を中心に、奥行き30mのオフィススペースを高さ1200mmずつずらしたステップフロアとして配置。空調機械室、階段、エレベータなどのサービス機能はオフィスフロアの外周に設けた。

「明治安田生命新東陽町ビル」の全景
まず重視したのは「均質ではないオフィス空間の実現」だった。背景には「環境」や「働き方」に対する社会の考え方の変化があり、「変化を許容する建築」の重要性の高まりがあると分析する。「省エネ化のために自然エネルギーを利用する必要があるが、季節や時間によって変化する自然採光や通風を活用するためには、オフィス自体が外的環境の変化に対応する必要がある」ほか、知的生産性の観点からも「均質な空間の中で作業するのではなく、オフィスの中にいろいろな場の設定があり、その時々の気分により好きな場所で作業した方が生産性が上がる」からだ。
 これに加えて、今回の作品で新たな局面として意識したのが「オフィスで働いている人間にとって心のよりどころとなるような空間の象徴性を生み出すこと」だった。通常、オフィスにおいて「空間の象徴性」が問われることはない。しかし、今回の作品では同心円状に積層するステップフロアと吹き抜けという独特の構造により高低差を設け、オフィスに居ながら全体を俯瞰する視線を生み出した。

菅順二氏(竹中工務店設計部長)
「組織が巨大化すると構成員が自分の役割を見失ってしまう」からこそ、この象徴性により「組織の中で自分がどんな役割で働いているのかを心から実感できる空間にしなくてはいけない」とも。
 今回の受賞作品は、これまでに手掛けた「竹中工務店東京本店」(2004年)、「スカパー東京メディアセンター」(08年)、「日東工器本社・研究所」(10年)、「飯野ビルディング」(11年)で展開してきた共通のコンセプト「スペースの全体可視性確保」「自然光・通風の導入」「視環境の変化の演出」の延長にある。
 菅氏は、このコンセプトを設定した理由として現代のオフィスビルが「建築」ではなく容積率にあわせた「土地」をつくる営みになってしまっている点を指摘する。
 その上で、オフィスがフラット化している時代においては「どれだけ今までに展開したコンセプトや象徴性を実践し、そこで働く人間の記憶に残る建築になっていけるかが重要になる」と見据える。
建設通信新聞(見本紙をお送りします!)

0 コメント :

コメントを投稿