2014/05/05

【現場最前線】蓮の花型ビルの白亜寺院 制したのは鉄筋・型枠・打設の三位一体

3次元曲面を多用したデザイン
JR新宿駅からほど近い場所で、目を引くデザインの建物の建設工事が進んでいる。深くくびれた1階部分からハスの花のように建物が広がり、見る角度や日の当たり方によってもその表情を変える。近づいてみると、ホワイトコンクリート打放しの外壁には天然杉による木目が映し出されている。細部に至るまで非常に凝った建築物で、建築主や設計者の強いこだわりが感じ取れる。施工を担う竹中工務店の作業所を取材した。

 この建築物は、宗教法人・光明寺による寺院「新宿瑠璃光院白蓮華堂」で、意匠設計を設計組織アモルフ、構造設計はTIS&PARTNERSが担当。豊田自動織機が総合元請けとなっている。規模はRC造地下1階地上6階建延べ2294㎡。立体曲面を多用した外観で、一目で施工難易度の高さがうかがえる。

立体木目型枠
竹中工務店は、まず徳島県の山林を買ったという。「木頭(きとう)杉」と呼ばれる杉材を大量に調達するためだ。杉はコンクリートの型枠に使用、木目が転写するよう表面を凹凸状に強調する浮造(うづくり)仕上げを行ってから型枠を組み立てた。杉の表面を何度も削り、試行錯誤を経てようやく浮造の仕様が固まった。この3次元木目型枠の作製は三基型枠工業の栃木営業所で行った。
コンクリート表面の杉木目
このプロジェクトでは、前例がないほど大量なホワイトコンクリートの打設が大きなかぎを握る。躯体に使うため大臣認定を経て打設に臨んだが、普通コンに比べて粘性が高く、打設したのは真夏。さらに前面道路が狭く、打設車両が1台しか横付けできないという物理的な制約もあり、「ジャンカやコールドジョイントなどの打設不良が懸念された」(竹中工務店の藤井弘義作業所長)という。
 このため作業所サイドは、竹中工務店の技術本部や技術研究所と連携しながらホワイトコンクリートと徹底的に向き合った。砂と骨材の比重調整や混和剤のアレンジなど手を尽くしたおかげで、「打設しやすくクラックのない品質を実現できた」(藤井所長)。打設にあたって、あらかじめモックアップを作製して実施工の見当を付けた点も功を奏している。
 くびれた1階から2階部分にかけては緩やかな傾斜で外壁が広がっていくが、この斜面部分には軽さと強さを追求して中空状のボイドスラブを採用している。マンションなどに使われるケースも多いボイドスラブだが、傾斜したスラブは珍しい。このほか見慣れない曲線を描く鉄筋も多く、一般的な建築物の施工とは一線を画す。藤井所長は「鉄筋、型枠、打設が三位一体となって完成させた」と自信をのぞかせる。
 建物内部に入ると、採光に大きな特徴があることが分かる。ランダムに配置されたかのように見える採光窓も実は緻密に計算されている。特定の日時になると仏像に日が差し掛かる演出を組み込んだり、地下の部屋でも採光のおかげで地下にいることを感じさせない。一方、内装は木目コンクリート打放しに加え、湿式仕上げも採用している。中には、コテを使って光沢を出す「大津磨き」と呼ばれる伝統的な左官技法を採用した部屋もある。
 建築主、設計者、施工者それぞれの思いが込められた建築物は4月末、引き渡しを迎える予定だ。
建設通信新聞(見本紙をお送りします!)

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