2014/04/27

【建設論評】他を思いやる「仁」の心 上に立つ者が発揮してこそ

孟子は「我家の老人をいたわる気持ち、幼児をかわいがる気持ちを拡張して他に及ぼすなら、天下を掌の( たなごころ)上にあるもののように動かすことができる」と言った。
 これは、組織や国家の運営をいかんなく行うためには、上に立つ者は、必ず他に対する思いやりの心、すなわち仁の心を発揮すべし、と説いた言葉である。仁の心は何よりも大きな指導力を持つものと言っているのだ。
 人が望むものを与え、人が嫌がるものを押し付けないのが、組織や国家を運営する基本である。ただし、いかなる場合も秩序と筋道、すなわち義を守ること(正義)が求められる。
 孟子はさらに「他人の気持ちをくむ感情は仁の端緒。羞恥の感情は義の端緒。謙遜の感情は礼の端緒。善いことを善いこととし、悪いことを悪いとする感情は智の端緒」と説き、「仁、義、礼、智を実行できない者は自殺者である」とまで言っている。
 製薬会社が売上高を伸ばすため、自社の薬の効果に関して行った医師に対するアンケート結果を改ざんした例があった。改ざんして、その薬は他の病気の治癒にも効果があり、副作用が少ないと報告したのである。
 製薬会社にとって最も大切なこと(義)は、患者に対する誠実である。利益を追求するあまりのアンケート結果の改ざんは智がなく、礼を失する行為である。何よりも患者に対する思いやりの心(仁)を欠いている。結局、この製薬会社は、経営陣の退陣を余儀なくされた。失った信用を取り返すのは容易ではないだろう。
 経営者に仁の心がなかったから、この製薬会社は大きな負の面を残したのだ。
 こうしてみると、仁の心を発揮することが義、礼、智の心をもたらす機動力にもなるようだ。
 さて建設の場合、供給側は、まずは顧客の満足のために最大限尽力することが求められる。合わせて、 完成した建物が良好な都市の基盤ともなし得る社会の資産として位置付けられるよう造ることが求められる。 このためには何よりも上の者が仁の心を持つことが必要だ。 上の立場にいる者が発揮する仁の心は、必ず下で働く者に伝わる。
 ある工務店では2、3年前から、社長が日々の朝礼で社員に対し、四書五経をもとに「人間学」を講じている。これを始めて半年、社員は命じられることもなく、早朝、会社の周辺を清掃するようになったという。自然に社員のボランティア活動が行われるようになったのである。清掃する範囲は次第に広がり、2年後には会社から100m以上離れたところも清掃するようになったという。
 その効果かどうかは分からないが、経済的に厳しい状況の中で会社の売り上げは年々増加の傾向にあるという。特に宣伝することもないのに常に顧客の満足度を高め、まちの景観を向上させる会社であることが一般に認識されるようになっているのだ。
 社長の心掛けが社員を育て、社員が仁の心をもつようになって会社の利益が増え、結局は勝利を得ているのである。
(樫)
建設通信新聞(見本紙をお送りします!)

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