2013/12/16

【ロボット】国交省が4技術で実証実験 インフラの点検に本格活用へ

走行系ロボットの実証実験、遠隔操作で配管を乗り越えるロボット
国土交通省は、社会資本ストックの戦略的な維持管理・更新に向けた、インフラの点検・診断に関する新技術の実証を本格スタートした。民間から公募し10月に32技術を選定した「コンクリートのひび割れについて遠方から検出が可能な技術」のうち、ロボットに関する4技術の実証は6日までに完了。橋梁や排水機場を対象に飛行系ロボット3件と走行系ロボット1件を試行し、成果や今後の課題も浮かび上がってきた。検証の状況を追った。


 コンクリート構造物のひび割れは、そこから水分が浸入し、鉄筋の腐食につながるため、早期発見と予防保全の実施が長寿命化には不可欠となる。現状では、近接目視点検や打音検査など、作業員が至近距離から手作業で点検することになっているため、足場など仮設費によるコストアップに加え、ひび割れを検出する作業員の熟練度が求められるなどといった課題が指摘されている。
 今回のロボット技術の実証は、海上にある橋梁や照明のない地下部など、人の手が届きにくい場所にある構造物の劣化状況を効率的に確認できる技術を実用化していくために実施した。
飛行系ロボの実験



◇飛行系ロボット


 飛行系ロボットの実証は、11月28日に東京都八王子市にある国道16号八王子バイパス新浅川橋で実施した。実証技術は、▽小型無人飛行装置によるコンクリート面の撮影技術(提案者・アスコ)▽無人ヘリロボットによるコンクリート構造物のひび割れ検出技術(ルーチェサーチ、広島工大十河研究室)▽無線飛行体によるひび割れ検出システム(富士建)--の3件。いずれも無人飛行装置の上部にデジタルカメラを設置し、橋梁の下から床版にあるひび割れを撮影する仕組みだ。
 実証ではロボットを操縦する作業員とカメラを操作する作業員がペアとなって取り組んだ。通常の操縦はGPS(全地球測位システム)で制御され、一定の習熟度があれば操作できるというが、当日は穏やかな晴天に恵まれたものの、橋梁の下部では風が渦巻いていた。こうなるとGPSによる制御がきかず、作業員による操縦が重要になる。思いどおりに床版に近づけない場面もあったが、提案者は「風は想定の範囲内」と口をそろえ、制限時間がある中で落ち着いて点検作業に臨んでいた。
 一方で、カメラの搭載やプロペラの枚数などによってロボットの重量が変化することで、バッテリーの稼働時間に影響を与えるという課題も示された。今回の制限時間は15分程度で大きな問題にはならなかったが、飛行の安定性や遠隔性を高め、検出の正確性を向上させるためにも今後の改良点の1つと言えそうだ。
 今回の実証現場は河原で、作業員が出入りできたが、今後は作業員が立ち入れない場所でも実証したい考え。国交省では「こうした技術が、海上にある長大橋梁などの点検などに活用できれば」と期待を寄せる。一方で今回の現場を再び活用した比較検証なども検討する。

◇走行系点検ロボ

 走行系点検ロボットは、埼玉県三郷市にある三郷排水機場で6日に検証した。大和ハウス工業が提案した「狭小空間点検ロボットmoogle(暗所、閉所空間におけるコンクリートひび割れ検出・測定技術)」で、もともとは住宅の床下の劣化状況を把握するために開発した。これを土木構造物でも活用する。長さ495mm、幅280mm、高さ220mmのロボットには、移動方向を示すカメラとひび割れを検出するカメラの2台が搭載され、ロボットを操縦するパソコンに両方の画像が無線通信により映し出される。撮影と操縦は1人で担う。
0走行系ロボットの実証・暗所での撮影作業

 実証は、無照明のポンプ室と、配管が輻輳(ふくそう)する地下室の壁面で実施した。照明設備のないポンプ室では、数十m離れた場所からの操作でロボットの照明を頼りにひび割れを検出。地下室では床から高さ15cmほどの位置にある配管を乗り越え、また複雑に入り込む配管のわずかな間をすり抜けながら設備の裏側や人が近づきにくいコンクリートを撮影し、これをもとに劣化状況などを点検した。
 ひび割れを撮影する正確性については、電波送信の関係もあり、カメラの画素数を30万画素に絞っていることから、現状では「50cmから2m近くまで近づく必要がある」(大和ハウス工業)としている。このため、今後より遠く離れた場所からの撮影性能が求められる可能性もある。
 また、電波の送受信も課題に挙がった。木造住宅の場合は、ロボットの周囲をコンクリートで覆われることがなく電波の受信に問題は生じないが、コンクリート構造物では四方をコンクリートで囲まれるため遠隔での操作に難があるという。特に「地下室は天井高があったため問題はなかったが、ポンプ室は天井高がなく電波の受信が難しい」(同)と、周辺状況によって受信状態が左右されたことを明かしている。
 それでも国交省は今回の検証について、「適用性の確認や評価をするだけでなく、今後必要な技術や検証方法についても見いだしていきたい」と狙いを説明しており、課題や反省点も反映させながら新技術の活用につなげていく考え。
 現在、経済産業省や有識者などと進めている「次世代社会インフラ用ロボット開発・導入検討会」でも新たな技術に求められる水準や開発に向けた目標を明確化していく予定で、その検討を踏まえて民間からの公募を通じた技術開発の支援や現場を活用した技術の検証・評価を2015年度にかけて進める方針だ。
建設通信新聞(見本紙をお送りします!)

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