2013/07/23

【げんば最前線】住民の願い実現へ 仙台市の造成宅地滑動崩落緊急対策工事

仙台市を襲った最大震度6強の地震は、郊外丘陵部を中心に、5500カ所を超える宅地に甚大な被害を与えた。同市では、専門家による復旧方針と工法の検討を進め、太白区緑ヶ丘の一部を除く全地区を現地で再建することにした。特に大きな被害を受けた青葉区折立5丁目地区の宅地復旧工事を施工する森本組の川原享一作業所長に現状と課題を聞いた。
 1960年代後半に造成された折立5丁目地区の地盤は、もともと地下水位が高く、地表面付近は、かなり柔らかい礫混じりの粘土層でできており、今回の長周期の震動により谷埋め型の盛土と地山の境界を中心に地すべりが発生。約2.5ha、58宅地で擁壁の転倒や宅地の陥没などが起こり、多くの家屋で柱などが傾いた。


◇一般的な造成と違う

 宅地の復旧方針や工法を検討した市宅地保全審議会技術専門委員会(委員長・飛田善雄東北学院大教授)からは、「防災集団移転の検討も必要」との付帯意見も寄せられたが、住民意見や安定化に必要な技術・コストなどを踏まえて現地再建が決まった。
 地震発生から2年以上が過ぎ、被災した建物の解体が進む一方、被災者の中には70-80歳代の高齢者も多く、宅地の復旧後に建物を再建できるめどが立たたないため、被災した住宅にいまも住み続ける住民もいる。
 同社が市と工事請負契約したのは昨年12月だが、調査や協議を経て本格着工したのはことし5月に入ってからだ。「生活している家屋や、架空線など被災区域外にも影響するライフラインがあり、一般的な造成工事に比べて相当な制約がある。移設が必要な電柱や埋設物の調査、関係者間の調整に時間がかかり、移設工事を含め非常に厳しい工程になっている」(川原所長)という。


◇二重、三重の工法採用

 専門委員会がまとめた折立5丁目地区の復旧工法は、盛土と地山の境界部の変形に「固結工」、盛土表層部の変形はひな壇ごとに「固化材盛土工」や「矢板併用抑止杭」「網状鉄筋挿入工」を施すというものだ。道路部には「暗渠工」を設置し、滞留する地下水の排水と水位の抑制を図る。一度撤去した土砂は、改良した上で再利用する計画だ。
 被災区域の末端部には震災後、使用を中止している折立小学校がある。校門付近の通学路部は、グラウンドアンカーで崩壊を抑止するとともに、ブロック積み擁壁を再構築して安全を確保する。
 現場では、複数の工種を同時に展開しており、4人のガードマンを含め常時35-40人程度で工事に当たっている。「一度作業員を手放すと、他の復旧・復興工事に流れてしまう。綿密な工程計画のもと、それぞれの工種がうまくローテーションするよう工程管理が重要だ」と気を引き締める。

◇個別相談にも対応

 残存する家屋や倒壊を免れた家屋の近接地での施工となるため、「最大限に配慮しているが、ほこりや騒音は発生してしまう。工程ごとに作業前説明を行うなど、住民の理解のもとで施工を進めている」という。その上で「振動などが残存する家屋に影響する可能性もあるだけに、慎重に作業を進めたい。家屋間の狭小な空間で鉄筋を挿入するための新たな工法も必要だ」と課題を挙げる。
 同社では、現場近くの小学校内に現場事務所とインフォメーションセンターを設置しており、工事の進捗状況などの情報発信に加えて、個別の再建相談にも応じている。「境界を巡る対立や庭の保全、フェンスの再建など、さまざまな問題が寄せられる。住み慣れた場所に早く戻りたいという住民の願いを実現するよう、万全の体制で工事を進めたい」と、1日も早いコミュニティーの再建に向け全力を挙げて取り組んでいる。
建設通信新聞(見本紙をお送りします!)2013年7月23日

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