2013/06/13

【復興版】合言葉は“NOと言わない"! 国交省「リエゾン」の真実

合言葉は“NOと言わない"--。東日本大震災では多くの尊い生命・財産が失われただけでなく、電気や水道・下水道、情報通信網といったライフラインが奪われ、大混乱に陥った。物資はすべてが不足した。食料・飲料水はおろか、燃料や毛布、簡易トイレ、そして棺(ひつぎ)さえも。一般の通信機器が使えない中で、被災地が求めている物資を外部に伝えたのは国土交通省から派遣されたリエゾン(災害対策現地情報連絡員)だった。岩手県陸前高田市でリエゾンの任務に当たった東北地方整備局湯沢河川国道事務所の鈴木恵吉道路管理課長に当時の様子を聞いた。

◇リエゾン

 リエゾンとは、「つなぐ・連絡」という意味のフランス語。2008年6月14日に発生した岩手・宮城内陸地震からこの名称が使われ始めた。
 東日本大震災では、国交省から青森、岩手、宮城、福島の各県庁と、31市町村に派遣。ピーク時には96人に達し、11年6月30日までの派遣人数は延べ約3900人に上った。
 被災自治体の災害対策本部に入り、情報の収集・提供を行うのが主な任務だが、鈴木課長が派遣された陸前高田市での任務はそれだけではすまされなかった。
 鈴木課長が湯沢河川国道事務所の高橋季承所長(当時)から、リエゾンとして陸前高田市に行くことを命じられたのは震災翌日の3月12日だった。隣接する宮城県気仙沼市内に在任したことがあり、土地勘があることが選ばれた理由だった。

◇何でも屋


「教訓を多くの人に伝えたい」と鈴木課長は話す
高橋所長からは、本局の災害対策室のミッションが伝えられた。「従来の情報収集の調査員としてだけでなく、『何でも屋』になって先方のあらゆる要求に応えてほしい。合言葉は“NOと言わない"」と。
 しかし、鈴木課長は「所長が何を言っているのか理解できなかった。何でも屋、NOと言わないとはどういうことかと思った」と振り返る。
 翌13日午前8時に同事務所職員の清水川斉氏と2人で秋田県湯沢市を出発。陸前高田市に入り国道340号を海岸に向かって進むと突然、目の前に破壊された“生活"の痕跡が飛び込んできた。
 「ここが本当に陸前高田かと思った。津波で生活そのものが流されていた。多くの遺体に遭遇し、言葉を失った」
 市庁舎は津波で4階まで水没し、戸羽太市長は屋上のアンテナにつかまって助かった。しかし、約400人いた職員のうち、111人が死亡・行方不明となった。
 一方で、津波到達地点から災害対策本部となった市給食センターまでの道路が既に啓開されていたことに驚いた。地元建設会社の作業員らが、がれきの下の遺体を傷つけないように注意しながら、わずか1日で啓開していたのだ。
 その災害対策本部には、関係機関が一堂に会して情報共有や協議・調整するスペースもなく、各機関がバラバラに拠点を確保しているに過ぎなかった。
 電気も通信手段もなく、会議も夕方1回、集まるだけで、まったく対策本部として機能していなかった。鈴木課長は市長について回り、各機関の担当者との会話をメモして衛星無線で本局に伝えた。

◇棺桶も調達


毛布1万枚に仮設トイレ70基、ガソリン・軽油などの物資のほか、全国の地方整備局から集められた災害対策本部車や照明車、衛星通信車の配備を依頼した。
 リエゾン派遣3日目、戸羽市長に徳山日出男東北地方整備局長と直接話す機会を設けた。徳山局長の「私をヤミ屋のオヤジと思って何でも必要なものを言って下さい」との呼び掛けに、戸羽市長は「棺おけをお願いします」と答えた。この会話を聞いていた鈴木課長は、棺を依頼した戸羽市長と、それを承知した徳山局長に驚いた。
 しかし、鈴木課長がリエゾンとして派遣された5日間には棺おけはおろか、毛布1枚も届くことはなかった。思わず本局の災害対策室でリエゾン班を統括していた池口正晃企画調整官に向かって声を荒らげ、一刻も早い物資の到着を要請した。池口調整官も鈴木課長の悔しさは痛いほど分かっていた。「物資は必ず届ける。私たちを信じてほしい」(池口調整官)。
 物資の到着を見届けられないまま陸前高田市から秋田に戻る際、戸羽市長は鈴木課長に「あなたたちの気持ちはしっかり受け止めました。ありがとう鈴木さん」とねぎらいの声を掛けた。物資が届き始めたのは、その日の夜からだった。

◇マンガでも紹介

 鈴木課長らの奮闘ぶりは東日本大震災のドキュメンタリーコミック『啓け!~被災地へ命の道をつなげ~』(岩田やすてる著)などで紹介され、多くの人たちに知られるようになった。
 鈴木課長は「リエゾンの役割は、派遣される自治体の被災状況によって大きく異なる。震災の教訓を風化させないよう、自分が経験したことを一人でも多くの人に伝えていきたい」と力を込める。
建設通信新聞(見本紙をお送りします!)2013年6月11日

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