2013/05/08

【復興版】震災時の地域建設業の道路啓開・奮闘ぶりが漫画でベストセラー

震災発生から2年2カ月。被災地の復旧・復興が進む一方で、震災体験が風化しつつあるのも事実だ。こうした中、震災直後に道路啓開や自治体の緊急支援などに奔走した東北地方整備局、地域建設企業の奮闘ぶりを描いたドキュメンタリーコミック『啓け!~被災地へ命の道をつなげ~』(岩田やすてる著)が出版された。漫画という子どもにも分かりやすい媒体で、当時の様子がリアルに再現されている。同コミックに登場する小野良組(宮城県気仙沼市)の三浦成康、熊谷和彦の両氏らに当時を振り返ってもらった。あわせて、今後の復興にかける意気込みも語ってもらった。


小野良組は、震災前から国道45号の気仙沼国道維持修繕工事を担当している。同工事で現場代理人を務める三浦氏と監理技術者の熊谷氏は、道路補修を終えて現場事務所に帰る途中で震災に見舞われた。
 車のラジオは津波情報を伝えていた。最初は3m、そして6m、10mとどんどん予想高さの数字が大きくなっていった。津波到達後、高台にある事務所から国道が見えるところまで降りていった2人の目には、がれきに覆い尽くされ、変わり果てた故郷の姿が飛び込んできた。
 熊谷氏は「とにかく津波警報が解除されるのを待とう。すべてはそれからだ」と三浦氏に呼び掛けた。しかし、頭の中では既に重機を動かす油や作業員、食料をどう確保するかを考えていた。
 それは三浦氏も同じだった。「たぶんガソリンスタンドは使えない。ガソリンを節約しなければ」と、たき火で暖を取りながら一夜を過ごした。


小野良組の熊谷氏
◇地元企業の強み

 「どこから手をつけようか」--。津波警報が解除された翌日、両氏はパトロールをしながら考えていた。「45号の一方向からがれきを撤去してもなかなか進めない。45号に接続する市道、町道、簡易農道からも重機を入れて分散させるしかない」という結論に達した。
 車で迂回(うかい)路を探していた三浦氏は、見覚えのない道路を走っていることに気付いた。同乗していた作業員が「この道路を通れば45号につながる」と教えてくれたのだ。三浦氏は「地域に精通した人間を抱える地元企業の強みだ」と感じた。
 こうしてスタートした道路啓開作業。東北地方整備局からは各地の建設企業に『くしの歯作戦』の指示が出ていたが、小野良組の社員らは指示を受ける前に自主的に行動していた。
 危険を顧みずに行動した社員に対し、横山哲朗土木部長は「われわれは45号を仕事の場としているが、その前に45号に生活を支えてもらっている。この道路を通すのは自分たちしかいない。誰のためとか、何のためとか抜きにみんなが行動してくれた。ある意味、職業病でしょうね」と語る。

◇マンガで理解促進

 こうした地域建設企業の献身的な働きは、マスコミ報道を通じて一部は国民に伝わったが、自衛隊や消防・警察の活動に対する評価には遠く及ばない。それだけに今回の漫画という媒体には、理解促進への大きな期待がかかる。
 家族の安否確認もとれず、複雑な気持ちで道路啓開作業に当たっていた熊谷氏は「もちろん家族のことは心配だったが、無我夢中で仕事をしていた。子どもが漫画を読んで、自分が何をしていたか分かってもらえたのではないか」と話す。三浦氏も「めいっ子が『おじさんが漫画になった』と喜んで全部読んでくれた」と、照れくさそうに笑う。
 今後の復興に向けて熊谷氏は「どれぐらいの年月がかかるかわからないが、体力を維持し、われわれの手で気仙沼を復興させたい」と話し、三浦氏も「建設企業は復旧・復興工事を担うだけでなく、雇用の受け皿になっている。気仙沼で最も大きい建設企業として役割をしっかり果たしていきたい」と強調する。
 横山部長も「当社はこれまでも、これからもこの地域で生きていく会社。地元の要望に耳を傾け、きめ細やかな施工を行うことで、支持され続ける会社でありたい」と力を込める。

◇amazonでもベストセラーに

 『啓け!~被災地へ命の道をつなげ~』は3月10日に初版5000部を発行。全国の書店やamazonなどで販売しており、同月中に在庫が薄くなったことから、4月上旬に3000部を増刷した。出版元の「コスモの本」によると、建設関連団体などから「建設業の役割を理解してもらうため、地域の小中学校に寄贈したい」と、まとまった数の注文が入ることが多いという。(945円)
建設通信新聞(見本紙をお送りします!)2013年5月7日



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