2012/10/11

連載・GSAのBIMマネジメント(4)「実施計画」で境界を明確に

BIMはコラボレーションを強力に推し進めるツールである。それだけにいままでと違った他者との関わり方が新たに必要となり、新たに発生する作業をどのように分担すればよいかが悩みの種となる。設計段階の検討レベルや図面の精度が低いため、設計段階から引き渡されたデータを施工段階で再活用できないというのは、日本の施工者からよく聞く話である。
 米国では何事においても各自の仕事の作業領域を明確にすることから始める文化がある。各自のミッションを明らかにし、仕事に対する責任感を抱かせ、オーナーシップを発揮させる。GSA(米国連邦調達庁)では、BIMプロジェクトを始めるにあたり「BIM実施計画」を作成することにしている。これは、BIMを使う目的や用途、担当者の役割、ワークフロー、データの受け渡し方などを明確にしたものである。BIMの使用目的は多種多様であるため、プロジェクトごとに関係者間で協議して作らなければならない。ただ一から作成するのは大変であるため、ペンシルベニア州立大学がBIM実施計画を作成するための解説書とテンプレートを公表しており、GSAもこれを基にBIM実施計画を作成している。
 作成手順はトップダウンのアプローチで、①BIMの目的と用途を明確にする②情報伝達のプロセスを明確にする③各自の役割と作業領域、設計レベルなどを決める④利用するソフトウエア、成果品のファイル形式、打ち合わせルールなど具体の手順を取り決めるというものである。特段目新しいものではなく、日本でも容易に取り入れられるものではないだろうか。
 設計レベルについては、米国ではAIA(米国建築家協会)の“AIA Document E202-2008"の分類がもっぱら利用されている。LOD(Level of Detail)と呼ばれ、LOD100:基本計画、LOD200:概要設計、実施設計、LOD300:建築生産設計、LOD400:制作図、LOD500:現状反映図と5段階に分類され、建築のパーツごとにだれがそのデータを作成するかを決めるようになっている。
 日本のワークスタイルは、作業分担が曖昧であり、その境界を明確にするのを避ける傾向がある。しかし、曖昧なままスタートすると、ニッチに入り込んだ作業が互いに押し付け合いになるおそれが大きい。BIMを使用したワークフローは確立していない以上、とかくそうなりがちである。功を急がず、プロジェクトの開始時点で、当たり前だと思うことでも真剣に議論し、きちんと境界を明確にして、担当者間で認識を共有しておくことが重要である。
 ただ、忘れないで欲しいのは、日本の良さは曖昧な領域の仕事でもお互いに助け合うことにあり、BIM実施計画を作成する目的は協力体制を推進することにあるということである。縦割りの罠、米国流に言えばサイロ(穀物貯蔵用の塔)アプローチに入り込むことのないようにしたい。
(内閣府沖縄総合事務局開発建設部営繕課長 大槻泰士)

建設通信新聞(見本紙をお送りします!) 2012年9月26日14面


 

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