2012/09/23

「東京抜きの建築」を考える くまもとアートポリスが25周年シンポ

伊東氏、アドバイザーの曽我部昌史氏(左から)
国内外から注目されるプロジェクトを生み出してきた熊本県の「くまもとアートポリス(KAP)」活動が25周年を迎えた。バブル経済の最盛期にスタートした後、景気低迷期に入ってプロジェクト数は減少したものの、都市・建築文化の向上に貢献し続けている。東京都港区の伊東建築塾神谷町スタジオで開かれたシンポジウムでは、空間ではなく時間の概念を取り入れた建築・都市デザインの必要性や東京と地方の関係など、KAPだけでなく日本の建築文化そのものを育てるための方策まで議論が広がった。

熊本駅白川口(東口)駅前広場(2011)
KAPが始まったのは1988年。機能性だけを追求するのではなく、デザインにも配慮した後世に残る建築物を生み出しながら、若手建築家の育成に貢献してきた。
 大屋根が連続する白川口駅前広場の設計を手掛ける西沢立衛氏は、同プロジェクトについて「駅前を交通処理だけに終わらせるのではなく、人が来たくなる公園のような空間にしたかった」と、駅前の活用策として多目的空間を提示している。
 最近は、学校プロジェクトが増えてきた。「オープン化、小中一貫校への対応などの難しい課題にKAPが活用されている」と、KAPアドバイザーの末廣香織氏は現在の主な役割を説明する。

◇みんなの家に熊本からタマネギ

 磯崎新氏、高橋●(青に光)一氏に続き、2005年から3代目のKAPコミッショナーを務める伊東豊雄氏は、KAP初の熊本県外プロジェクトとして仙台市宮城野区に建設した「みんなの家」について「これまでわれわれは、東京の建築を熊本や被災地でつくる、あるいは持っていくことを考えていたが、地元の人を前にして、そんなことはできなかった」と振り返った。
 完成したみんなの家には、熊本県の農家からたくさんのタマネギが送られてきたり、募金で買ったモニターが設置されたり、地域の交流が増えた。「形はどうでもいい。“建築家"を捨て、心を通じあわせるためにどうすればいいのかを考えた」(伊東氏)結果、地域同士の心が通じあう。
 この経験を踏まえ、伊東氏は「経済万能主義の社会が人間を個に解体することを考えると、東京でコミュニティーなんてできるわけがない。東京から物事が起こるという時代はそろそろ終わる。建築家は、東京抜きの建築を徹底的に考えなければならない」と訴えた。
 これに対し、KAPアドバイザーの桂英昭氏は「どれだけ地方で活動していても、外部から違う空気をもらわないといけない。逆に東京の人は地方にアイデアを持ってきてほしい。東京がおもしろくない理由は、大きな資本が動いて建築ができていく様子が見えてしまうからだ」と指摘した。


熊本県営保田窪第一団地(1991)撮影:清島靖彦
◇空間から「時間のデザイン」へ

 KAPで保田窪第一団地の設計を手掛けた山本理顕氏は「建築はある種のシンボル。建築家の固有性でシンボルをつくることができると考えていたが、違った。実際は、時間や住民がシンボルとしてつくり上げてくれている。KAPがこれほど長く続くのは、シンボルに住民と時間が深くかかわっていることを証明している」と評価した。
 同団地は、完成当時こそ従来の生活スタイルとの違いから批判を浴びたが、「熊本駅白川口駅前広場とともに注目され、現在は韓国などから年間500人が見学にやってくる」(熊本県土木部建築住宅局建築課)ほど地域に根付き、シンボルとなっている。
 伊東氏は「空間のデザインから時間のデザインへ、建築家の役割が変わる。どのようにつくり、どのように育てるか、時間の中での建築へのかかわり方がはるかに重要」と、建築家が考え方を変えるべきだと強調した。これに呼応し、山本氏は「KAPは、いま儲かるかどうかしか考えられない経済主義とは違う。25年経っても、人々がまたそこに帰ってこられる記憶装置である」と、未来につなげるべき活動となるよう、期待を込めた。
 「現在の大きなテーマは『学びつつ創る、創りつつ育む』だ」(桂氏)。ゆっくりだが伸びやかに、未来づくりの芽は大きな木になろうとしている。
 今後、10月6-8日に熊本城城彩苑で記念展覧会を開催後、11月23、24日の記念国際シンポジウムを皮切りに熊本市現代美術館でアートポリス展覧会が始まる。
建設通信新聞 2012年9月20日10面

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