2012/09/17

旧清水邸書院が100年の時を経てよみがえる 二子玉川公園で復元へ

旧清水邸書院
東京都世田谷区の二子玉川地区で、都内最大級の再開発事業に併せて区が整備を進める(仮称)二子玉川公園。国分寺崖線の緑と多摩川の水辺を臨む、都市と自然の結節点に位置するこの公園内に、約100年前に建設された近代和風建築が復元される。「旧清水邸書院」だ。文化財としての高い価値を認められながら、約30年前に解体されて以降、再建場所が決まらないまま区が部材を保管してきた。社会貢献の一環として清水建設が全面的な協力を打ち出したことで明治期の貴重な遺構は来春、公園の開園とともに現代によみがえる。

◇33年間の眠り

 旧清水邸書院は、当時の清水組(現清水建設)副社長宅の離れとして、1910(明治43)年から11年ごろに台東区内に新築され、19(大正8)年に現在の世田谷区瀬田に移築、60年後の79(昭和54)年に解体された。
 栂(ツガ)を主要材にした造りで11畳の書院と5畳の次の間からなり、欄間には金箔などの工芸がみられ、確かな技術に裏打ちされた優れた意匠は復元すれば区の登録文化財としての価値を有するものと評価されていた。
 その解体部材は区が寄贈を受けて以来、33年以上の長きにわたって倉庫に眠っていた。この間、区も幾度となく復元の検討を試みてきたという。
 最大のネックは復元費用の捻出だが、「資金があればすべてが解決するわけではない。どんな場所でも良いというわけにはいかない」と当時教育委員会事務局生涯学習・地域・学校連携課長として計画に携わってきた松下洋章秘書課長は語る。「建設当時も庭園の中に建物があった。こうした和風建築として重要な立地条件に沿う適地にめぐり合わなかった」ことを理由に挙げる。

縁側越しに外を眺められる開放的な造りになっている
◇二子玉川公園整備がきっかけ

 今回、眠っていた部材が日の目を見たのは、区初の本格的な日本庭園を備えた二子玉川公園の整備計画が進む中で、かつての所在地に近いことから、ゆかりのある地での活用が望ましいとして復元構想が浮上したからだ。
 同公園の整備計画を担当した関根義和二子玉川施設整備課長(当時)は「多少の時間的なずれはあるものの、公園、文化、社会貢献という3つの需要がうまく合致した」と振り返る。
 同公園の整備に向けては、2009年度に住民参加のワークショップを開いた。「高齢者のためのゆったりしたものがほしい」という参加者からの意見をベースに、どういう庭にするか検討を進めた。立地特性上、西洋庭園はなじみにくいことから、日本庭園と方向性は決めたが、当初は訪れた区民が雨宿りできる四阿(あずまや)程度の施設を設ける計画だったという。こうした中で教育委員会サイドでは旧清水邸書院復元に向けた検討を進め、結果として同公園整備に盛り込めないかという考えに達した。

総アカマツ造りの書院
◇清水に協力を要請、復元が具体化

 復元に当たっては、長期の保存期間中に一部の部材が欠損していたほか、耐震性の確保などといった技術的な課題もあることから、清水建設に協力を要請した。資金の手当ても含めて松下課長は「区として腹を割って話した」結果、同社が地域貢献の一環として、また建築文化の継承という観点から工事費用を含め設計とともに施工も引き受けるという決断を下し、一気に実現へと動き出した。
 その後、公園の基本設計を変更、進士五十八東京農大名誉教授を座長とする「(仮称)二子玉川公園日本庭園検討部会」のアドバイスをもとに、張り出しを採用して池の奥行きを見せるなど、池との取り合いには配慮したという。設計段階では、「建物回りの歩行空間の確保や、伝統的な日本庭園に近代の和風建築を織り込む上でのギャップの解消も求められた」(関根課長)。
 特に「歴史的名建築の保存という観点から当時の開放的な造りを実現させたいという思いと、耐震性確保をいかに両立させるか」(同)がポイントとなった。当初は難しいとみられた2面開放も耐震壁の工夫や天井裏を活用した耐震補強など同社の高い技術力を生かして実現可能になったという。
 内装については、区教育委員会の文化財資料調査員が同社と部材一つひとつに至るまで時代考証を重ね、くぎ一本まで細やかなやりとりを続けた。松下課長は教育委員会の文化財資料調査員とともに部材を確認した際、部材の産地をすべて言い当てる同社の社員を目の当たりにして「ただただ感心した」と今もその驚きを鮮明に話す。
 8月に着工した復元工事も順調に進み、現在は基礎工事がほぼ完了した。松下課長は「(資金面、技術面ともに)私たちだけの力ではなし得なかった。清水建設の存在なくしては着工の日は来なかっただろう」と実感を込めて語る。
建設通信新聞 2012年9月14日12面

『木造建築を見直す (岩波新書)』 AmazonLink
 

Related Posts:

  • 【福岡県木造・木質化建築賞】第1回大賞は木質化の部に九州芸文館・アネックス2に決定! 福岡県は、第1回福岡県木造・木質化建築賞の受賞作品を発表した。大賞(知事表彰)は木造の部が東長寺五重塔=写真=、木質化の部が九州芸文館・アネックス2に決まった。5月に筑前町で開く福岡県植樹祭で表彰する。  同賞は県産材の需要拡大に向けてモデルとなる建築物を表彰し、普及・啓発することを目的に今年度創設した。木造の部は柱、梁、桁などの主要構造物のすべてか一部、木質化の部は天井、床、壁、窓枠、外壁などに木材を利用していることを条件に募集した。応募… Read More
  • 【竹中工務店】自然物を構造デザインに…ティラノサウルスだ! 恐竜の力学特性生かし高評価 ティラノサウルスの力学特性を取り入れた新しい建築構造を提案する--。そんな思いを込めた取り組みが2014年度日本建築学会技術部門設計競技で最優秀賞を獲得した。前傾させた胴体と巨大な尾を2本の脚で支えるティラノサウルスを樹形状の柱として読み解いた提案は、新たな構造デザインとして高い評価を受けた。なぜティラノサウルスを現代に蘇らせたか。受賞した竹中工務店東京本店設計部構造部門構造9グループ課長の望月英二さんらに「Tyranno Structur… Read More
  • 【コルビュジエ】建築設計資料約3万8000点をオンライン配信! エシェル・アン エシェル・アン(東京都新宿区、下田泰也社長)はフランスのル・コルビュジエ財団と共同し、同財団が保存する建築設計資料約3万8000点のオンライン配信サービスを開始した。日本語・英語・仏語に対応しており、世界中からコルビュジエの高精細な建築設計資料を閲覧できる。画像は公開中の図面。  下田代表は19日にフランス大使館で開いた記者会見で、「簡単に原資料に当たることができるようになるため、コルビュジエ研究の手法を大きく変えることになるだろう」と期待… Read More
  • 【JIA新人賞】「光」を演出し「境界」生み出した古民家リノベーション 豊島横尾館 瀬戸内海に浮かぶ豊島に建てられた美術館「豊島横尾館」がJIA新人賞を受賞した。集落にあった古民家3棟をリノベーションし、アーティスト横尾忠則氏の作品を展示する。設計した永山祐子氏(永山祐子建築設計)は、「横尾作品に通底するテーマである『生と死』に着目し、その境界となる美術館を目指した」と振り返る。アートと建築の新たな可能性を探ったその設計について永山氏に聞いた。写真は横尾氏の作品が並ぶ中庭(photo:表恒匡氏)。  「豊島横尾館」で… Read More
  • 【ASJ】「『建築家の自慢の写真』展~都市・建築・建築家~」2月28日まで 横浜 アーキテクツ・スタジオ・ジャパン(ASJ)は、横浜ランドマークタワー31階「ASJ YOKOHAMA CELL」で、28日まで「『建築家の自慢の写真』展~都市・建築・建築家~」を開いている。全国の建築家から集められた写真は、普段見過ごすような街や村の光景、出会った巨匠や建築家など、貴重な場面が映し出されている。写真は21日に開かれたパーティー。  同企画は、建築家の自慢の写真展実行委員会(代表・吉田研介吉田設計室代表)が担当。全国の建築家か… Read More

0 コメント :

コメントを投稿