2012/05/12

国交省BIM初試行のインパクト!「新宿労働総合庁舎」を徹底分析 -5-

入居官署に効果を発揮したショットパース
新宿労働総合庁舎の設計プロセスをひも解くと、従来とは異なる部分がいくつか見えてくる。BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)の導入によって変化が生じたケースだけではない。導入するために変えざるを得なかった部分もあった。

 「ショットパースを通常より多く提供できた」とは、梓設計の土井英尚設計室第2統轄部主任。休憩スペースとして使う階段の踊り場や、各執務スペースなどもBIMモデルから詳細なパースを迅速に作成した。2次元図面では空間をイメージしにくいため、通常の設計では要求された場合に設計者がスケッチを描くなどの対応をしていた。
 国土交通省関東地方整備局は「サイン計画や家具のレイアウトを含め、これまでにも増して細部まで検証できた」(外崎康弘営繕部整備課営繕技術専門官)と、ショットパース活用の効果を口にする。設計完了後に行う入居官署への説明会では「BIMの視覚的な分かりやすさ」について一定の評価を得た。
 ウオークスルーなどの動画を活用したプレゼンテーションの導入は、国交省にとっても初の試みだった。入居官署側の担当者は施設管理の視点から設計内容をチェックするため、結果としてBIMの多彩なアプローチが空間検証の密度を上げた。

◇図面仕様も柔軟に対応

 設計者側の提案として、図面仕様の変更を求めた部分もあった。3次元設計はモデルに図面が連動しているため、2次元に出力した際に仕上げ表や建具表の表現方法として、属性情報をパラメーター表示する「タグ」機能の活用が不可欠であった。
 従来の矩計図では引き出し線で関連情報をひも付けるが、3次元設計は部屋情報の中に仕上げなどの関連情報が位置付けられており、CADシステムの表現方法に合わせて管理できるように運用を変更する必要があった。設計者側では「従来の形にこだわらない発注者の配慮が下支えとなった」(ビム・アーキテクツ)との印象を強く持った。
 設計業務を終えた梓設計では「図面の管理が格段に効率化できた」(安野芳彦常務設計室長)と手応えを感じていた。2次元設計では図面枚数分のファイルが存在するが、BIMは各図面が関連して1つのファイルに収まった状態で管理できる。それがデータの整合性確認に加え、設計変更にも迅速に対応できる原動力になった。

◇情報共有のルールづくりがカギ

 BIMの導入は、いわば3次元設計の採用を意味する。2次元と3次元ではデータ管理の仕組みが大きく異なるため、現行ルールの範囲では対応できない部分が数多く出てくる。図面仕様の扱いでは記載すべき情報がクリアしていれば、その他の追加があっても問題ないような措置を講じたように、発注者側には柔軟な対応が求められた。
 試行プロジェクトでBIMの効果を最大限に発揮するには、合理的にデータを循環させる情報共有のルールづくりが大前提になる。ゼネコンや設計事務所がBIMを本格導入する際、基盤構築に時間をかけざるを得ないのも、データ標準化やテンプレート(図面作成のひな形)の整備が欠かせないからだ。

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