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建設工事の動きDigital

建設専門紙が本気でつくった工事データベース

2011/12/28

自然災害に翻弄も転換の年に/2011年重大ニュース

 こんな年が、かつてあっただろうか――次から次へと襲いかかる自然災害に翻弄(ほんろう)され続けた1年であり、欧州危機の影響による円高に泣かされた1年であった。2011年は年明け早々の噴火に始まり、巨大地震と大津波、台風による集中豪雨など、国や建設産業界はその復旧対応に追われ、国は4次に及ぶ予算編成を強いられた。地震によるサプライチェーンの寸断、電力供給に対する不安に加え、円高は製造業の海外移転を引き起こし、建設業の海外進出を加速させた。一方で、国土交通省の建設産業戦略会議は提言を発表、これからの建設産業の進むべき道筋を示した。社会資本整備に対する国民の視点も変わった。そうした意味では「転換の年」であり、新たな出発のための起点の年だったといえるのではないか。
◆災害列島・社会資本整備のあり方問い直す
 年が明けて早々の1月、189年ぶりという霧島連山・新燃岳の火山噴火に始まり、3月の東日本大震災、7月の新潟・福島豪雨、9月上旬から下旬にかけての台風12号、15号豪雨と2011年は、まさに記録的な、そして記憶にも刻まれる自然災害に見舞われた年となった。その脆弱(ぜいじゃく)な国土にあって、社会資本整備のあり方が問い直された年であったとも言える。
 救命の限度と言われる「72時間」以内にいかに救援ルートを確保するか。大震災で国土交通省東北地方整備局が実施した「くしの歯」作戦では、内陸部と津波被害が甚大な沿岸部を結ぶ16ルートのうち、発災翌日の12日にはじつに11ルートを啓開、迅速な救援活動につなげた。
 こうした道路啓開には、自らも被災者である地元建設業が中心的な役割を担った。大津波警報が発せられた状況下での懸命の活動は、被害の拡大を防ぎ、初期復旧に大きく貢献。各地の豪雨災害における対応も含め、建設業が地域社会に果たす役割の大きさを改めて認識させた。
◆新日建連誕生・国民から信頼と理解得られる団体目指す
 旧日本建設業団体連合会、旧日本土木工業協会、旧建築業協会(BCS)の合併表明からほぼ1年後の4月1日、新団体「日本建設業連合会」が発足した。今後は、一般社団法人への2013年4月移行に向け、定款改正を始め、支部規程の整備、運用方針の明確化などを進める。
◆建設産業戦略会議・地域維持型JVの導入など打ち出す
 「建設産業戦略会議」が、『建設産業の再生と発展のための方策2011』をまとめた。「地域維持型契約方式」の導入や、保険未加入対策、技術者データベースの構築、入札契約適正化指針の改定などを打ち出した。
◆八ッ場ダム建設・入念に再検証事業継続決定
 民主党のマニフェストで建設中止とされた八ッ場ダム(群馬県長野原町)は、再検証の結果、事業を継続することになった。馬淵澄夫大臣は「予断なき再検証」をうたい、関東地方整備局の事業評価監視委員会などが建設継続の妥当性を検討していた。
◆第4次補正予算案・当初から4次までの歳出総額107兆円
 2012年1月の通常国会に提出する11年度第4次補正予算案を含め、11年度の当初予算から4次補正までの一般会計歳出総額は、107兆5105億円にのぼり、過去最大となった。4次までの補正予算を編成するのは極めて異例。
◆復興庁・復興特区・震災復興に向け2法案が可決
 震災復興に向けて必要不可欠な2法案が成立し、復興施策に関する行政事務を一元化した復興庁が、来年2月にも発足する見通しとなった。11道県の222市町村を対象に規制緩和・支援する復興特別区域法に基づく申請受付も、同時期から始まる。
◆改正PFI法・コンセッション方式を創設
 5月24日、改正PFI法が成立した。これまでにない大改正で、インフラや公共施設などの運営権を民間に与える「コンセッション」などを盛り込んだのが特徴だ。政府の旗振り役として、首相が会長を務め関係閣僚が参加する「民間資金等活用事業推進会議」も内閣府に設置された。
◆TPP対応・交渉参加へ関係国と協議入りへ
 参加交渉の是非をめぐって、与野党ともに議論が二分していた、TPP(環太平洋経済連携協定)への対応について野田首相は11月、APEC(アジア太平洋経済協力)首脳会議で、「交渉参加へ向け関係国と協議に入る」ことを表明した。TPPは農業や金融サービスなど非関税項目含め自国産業保護や独自策の維持が難しいとの指摘もあり、いまだ慎重論も根強い。
◆ゼネコンの海外強化・受注目標の上ブレ相次ぐ
 円高、電力不足を背景に生産拠点を海外に移転する企業が続出、タイの洪水などを教訓に拠点を分散化する要求も高まり、ゼネコン各社は相次ぎ海外事業の強化に舵(かじ)を切った。ブータンでは丸新志鷹建設(富山県立山町)が日本企業として初めて政府発注工事を受注した。
◆UIA東京大会・連携・連帯強め新たな建築界へ
 9月末に開かれた国際建築家連合(UIA)2011東京大会には、海外約1900人を含む5000人以上が参加した。東日本大震災によって開催すら危ぶまれたが、それが逆に国内建築界や海外建築家との結びつきを強め、連帯感を生み出すことにつながった。
◆節電対策・現場で発電機の導入など進む
 福島第一原子力発電所の事故を受けて、2011年の夏は企業や一般家庭を問わず、節電が求められた。建設業でも室内設定温度の変更やクールビズの延長に加えて、サマータイム制の導入、夏季休暇の長期化や分散化などが進んだ。
◆鉄道プロジェクト・九州新幹線博多~鹿児島中央間開通
 3月12日に九州新幹線博多~鹿児島中央間が全線開通した。4月29日には青森から鹿児島まで新幹線がつながった。12月には政府が、整備新幹線の未着工3区間について、11年度内にも着工を認める方針を固めた。また、リニア中央新幹線も、建設に向けて大きく進展した年でもあった。

ODA道路でマラソン大会/大日本土木・NIPPOJV

 タジキスタン共和国でのODA(政府開発援助)事業「クルガンチュベ・ドゥスティ間道路改修計画」を施工した大日本土木・NIPPOJVは、竣工にあわせて現地でマラソン大会を開いた。道路工事区間が42.14㎞でフルマラソンの距離とほぼ同じだったため、「工事開始当初から構想していた」(大日本土木)という。地域住民ら約600人が真新しい道路の上を走り、汗を流した。優勝者には賞品や賞金が贈られた。
 この大会は、同工事の竣工記念と両国の友好を目的として、同国の「旗の日」である11月24日に開催した。警察の警護や医療チームによる救護体制のもと、5㎞区間を使って年齢・男女別の6クラスに分けてスタート。沿道の応援者たちは、両国の旗を振りかざしてランナーに声援を送った。
 12歳以下の女子クラスでは、先導車がエンストして競技者に追い越されるハプニングも発生したが、無事に各クラスとも競技を終了した。その後、市民ホールに参加者全員が集まり、ハトロン州ジョリルリン・ルミ郡の郡長なども招いて表彰式を開いた。各クラスの優勝者には、小型テレビや賞金を贈った。
 郡長は、「次回は全工区間を使い、ハトロン州(人口300万人)全体での大会にしたい」と意気込みを見せたという。日本のJVが発案した大型イベントとして、現地メディアも取材に駆けつけたほか、大使館やJICA(国際協力機構)からも好評を得た。

被災3県が要件緩和要望/「復旧・復興施工確保連絡協」初会合

 国土交通省は27日、仙台市内で「復旧・復興事業の施工確保に関する連絡協議会」の初会合を開き=写真、被災自治体および建設関係団体から東日本大震災の復旧・復興工事における入札不調の実態や、技能者・技術者の不足状況などをヒアリングした。また、岩手と宮城、福島の3県が共通要望として、▽技術者の専任を必要とする建設工事の要件緩和▽実勢価格を即時に反映できる労務費調査制度の設定――の2項目を求めた。同省は今後、月1回程度の会合を開き、具体的な対応策を検討していく。
 この日の初会合には国交、厚生労働、農林水産3省の本省および出先機関、岩手と宮城、福島3県および仙台市、建設業界6団体から約50人が出席した。
 冒頭、国交省の佐々木基官房建設流通政策審議官があいさつに立ち「東日本大震災は未曾有の災害だけに、これまでなかった課題の噴出が予想される。すでに不調・不落の増加や技能者・技術者の不足、労務費の上昇が起きている」と指摘した上で、「こうした課題を解決するには、いままでのやり方にとらわれない方法も必要だ。全国的に復興を支援していくという考えのもとで対策を講じていきたい」と語った。
 議事では、被災自治体と東北地方整備局から入札不調の発生状況、業界団体からは現況についてそれぞれ報告があった。このうち、入札不調は多少のバラツキはあるものの、総じて9月以降、不調発生率が上昇しており、工事規模が小さいほど発生率が高い傾向にある。特に不調発生率が高いのは、宮城県と仙台市の土木一式工事。宮城県は10、11月とも約4割が不調、仙台市は6月以降6カ月連続で3割を超えており、9月は5割まで達した。
 一方、業界団体は一部職種の労務単価が震災前に比べて3-4割上昇していることを報告したほか、技能者・技術者不足を補う観点から隣県の建設企業と時限的にJVが編成できる制度の構築などを求めた。

2011/12/27

建築家会館が創業50年迎える

建築家会館の野生司氏
 建築家の活動拠点建設を目指して約180人の建築家の出資によって設立された株式会社建築家会館が、創業50周年を迎えた。前川國男が提唱した「処士横議の場」として1968年の会館本館竣工以降、形を変えながら半世紀にわたって交流の場として存在感を発揮している。50周年の記念誌『建築家会館五〇年史・1961-2011』を発行した。
 22日に東京都渋谷区の同会館建築家クラブで開かれた「創業50周年感謝の夕べ」で、6代目となる野生司義光社長は「創業の理念を再認識し次の世代に引き継ぐことが重要と考え、記念誌を発行した。今後もJIA(日本建築家協会)のよきパートナーとして健全に存続し、皆さんのお役に立ちたい」とあいさつした。
 芦原太郎JIA会長は「処士横議の場として建築家の思いを引き継いでこられた。パートナーとして、建築家の志を50年先にもつなげていきたい」と述べ、乾杯の音頭をとった。

竹中工務店が福島で除染技術の実証試験

試験の様子
 竹中工務店は22日、福島県除染技術実証事業に応募した除染技術の実証試験を福島市内の同社福島営業所敷地内で行った=写真。
 福島県は、今後県内各地で本格的に進められる除染活動の促進を目的に除染技術を公募し、20者を選定。同社は、屋根・屋上・壁面・床面などの構造物の除染技術でそのうちの1者に選ばれた。
 実証試験では、粒径1-1・5mmの鉄球を高速で打ち付け表層を削り取るショットブラストと、工業用ダイヤを高速回転させて表層を研削する研磨機、高圧洗浄を組み合わせ、それぞれの除去効果を検証した。
 当日は、県担当職員立会いの下、アスファルトを4区画に分け、①高圧洗浄のみ②研磨+高圧洗浄③ショットブラスト+高圧洗浄④ショットブラスト+研磨+高圧洗浄--の4パターンで試験を実施。また、洗浄排水はすべて湿式バキュームで回収し、凝集沈殿剤とゼオライトを混合して処理した。
 現地測定の結果、表面線量はショットブラスト、研磨、ショットブラストと研磨の併用のいずれも、おおむね除染前の1割から3割程度に低減していることが確認された。高圧洗浄のみの結果については、路面が濡れた状態だったため測定しなかった。県は、竹中工務店を含む20者の除染実証試験の結果について、専門家の評価を加えた上で2011年度中に公表するとしている。

南相馬市が除染・土壌保管管理、ゼネコン26社指名で提案競技

南相馬市の立ち入り禁止区域
 福島県南相馬市は、除染作業および除去土壌等保管管理業務のプロポーザルを実施するため、26社を指名した。提案書の提出期限は2012年1月27日まで。2月上旬の1次審査で5社程度を選定し、ヒアリングを行う。同月中旬に受託候補者を選定する予定だ。履行期限は14年3月末。事業規模は3カ年で約400億円(税込み)と試算している。
 指名メンバーは、▽竹中工務店▽大成建設▽清水建設▽戸田建設▽鹿島▽前田建設工業▽大林組▽東急建設▽奥村組▽フジタ▽熊谷組▽西松建設▽ハザマ▽安藤建設▽佐藤工業▽ナカノフドー建設▽錢高組▽松井建設▽東亜建設工業▽大和リース▽日本国土開発▽福田組▽大豊建設▽東洋建設▽共立建設▽飛島建設--の26社。同市の建築工事に登録がある経審の建築工事の総合数値1500点以上かつ業務遂行に十分な技術的能力と財務的基礎、管理体制と処理能力があることなどを勘案して決めた。
 提案項目は、▽放射線量の高低に応じた除染対象物ごとの除染方法と排水処理、効果、見積価格▽処理計画目標▽モニタリング▽放射線・安全管理▽運搬・保管・管理▽住民対応▽地元企業との協働--の7項目。また、郊外型住宅(敷地面積約1600㎡)、市街地型住宅(約330㎡)のモデルケースの除染提案も求める。
 除染対象は、建物約4万6000棟(うち特定勧奨地点内2700棟)、宅地面積は1433万㎡(同89万㎡)、道路延長約1000㌔、住宅などから約20m程度の生活圏森林。原町行政区と鹿島行政区に135カ所の1次集積所を設けるほか、それぞれ1カ所に仮置き場を設置する予定だ。

2011/12/26

故黒川紀章の中銀カプセルが埼玉県立近代美術館へ/五十嵐太郎氏が仲立ち

 故黒川紀章氏が設計した中銀(なかぎん)カプセルタワービル(東京都中央区)のモデルルームが埼玉県立近代美術館に寄贈されることが決まった。東北大大学院の五十嵐太郎教授が仲立ちして、中銀ビルディングから贈られる。カプセルは現在、森美術館で開催中の「メタボリズムの未来都市展」に展示されているが、展示期間が終わる来年1月15日以降、美術館に移送される。同美術館では「当美術館は黒川氏が初めて設計した美術館であり、最高のクリスマスプレゼントになった」と話している。
 中銀カプセルタワーは、1972年に大成建設の施工で完成、工場製作の住居カプセルをSRC造のタワーにボルトで固定している。時代の変化や老朽化に応じてカプセルを取り替え、新陳代謝を繰り返していくという考え方で建設され、「メタボリシズム(新陳代謝)」思想を代表する建築だ。
 規模は、SRC一部S造地下1階で、地上は11階建てと13階建ての2棟構成になっている。延べ床面積は3091㎡で、建築面積429㎡。
 それぞれA棟、B棟と呼ばれ、1階部分はエントランス共用部で、エレベーターとそれをらせん状に巻く階段から成るSRC造のコンクリートコアシャフトが2本建て込まれ、そのコアの周囲に2本の高張力ボルトのみで個々のカプセルが取り付けられている。
 完成から40年近くが経過し、雨漏りや配管トラブルなどが相次いでおり、建て替える方針だ。
 このビルの保存については、ドコモモ(DOCOMOMO)が2005年に黒川氏宛に書簡を送っており、97年の国際運営委員会でも、ユネスコ世界遺産委員会に提出する国際的に重要な建物の推薦リストに挙げられている。日本建築家協会(JIA)、日本建築士会連合会、DOCOMOMO日本支部も保存要望を提出していた。
 五十嵐氏は自身のツイッターで「メタボリズム展終了後に行く先がなかったと聞き、埼玉県立近代美術館につないだところ、無事に受け入れが決まったようだ。思いがけず、現代建築の保存に貢献することができた」とつぶやいている。

東北電力の八戸メガソーラーが営業運開

 東北電力は、管内初のメガソーラー発電所となる八戸太陽光発電所の営業運転を開始した。土木工事は大林組、設備工事は東芝が担当した。
 八戸火力発電所構内(青森県八戸市河原木)に建設された八戸太陽光発電所=写真=は、出力が1500㌔ワット。太陽電池モジュールは多結晶シリコン(1000㌔ワット)と、薄膜系シリコン、薄膜系化合物(各250㌔ワット)の3種類を採用。年間発電電力量は一般家庭約500世帯分に当たる約160万㌔ワットで、1年間に約800tのCO2削減効果があるという。
 同社では、地球環境問題への対応を重要な経営課題の一つに位置付けており、2020年度までに管内複数地点に計1万㌔ワット程度のメガソーラー発電所の建設を計画している。

東日本復興2012年の展望/最大の課題は住民合意と産業創出

前田建設によるボランティア活動(陸前高田市、津端晃カメラマン撮影)

  東日本大震災から9カ月余。2011年もあと1週間足らずで幕を閉じ、新たな年を迎えようとしている。被災地にとっては、約12兆円の第3次補正予算と地域再生を支援する復興特区法、これらをスムーズに後押しする復興庁設置法の3点セットがそろったことで、12年は本格的な復旧・復興に踏み出す年となる。この記事では来年の復興課題を探ってみる。

 まず必要となるのが復興特区計画の申請だ。さまざまな規制緩和や税制などの優遇措置、また事業の原資となる復興交付金を得るためには復興推進計画と復興整備計画、復興交付金事業計画の3つの計画を作成しなければならない。規模が小さい自治体にとっては決して低いとは言えないハードルとなる。
 このため、民間企業が自治体に計画を提案することも認めるなど、対象となる222自治体が来年1月から申請できるよう配慮している。
 とはいえ、被災自治体の首長にとって難問は山積している。例えば漁業や水産加工を生業(なりわい)とする沿岸部では地震によって地盤沈下した地域をかさ上げすることに住民からの異論はないものの、高台移転するか現地再建かで住民の合意形成が難航するケースも出ている。
 震災以前から抱えていた過疎と高齢化という問題は、震災によって一段と深刻なものとなっている。被災地の多くの首長が「国の支援でいくらきれいな街をつくっても人がいなければ存続できない。いかに産業をつくるか、だ。それが一番難しい」と頭を抱える。地域経済再生のシナリオをどう描くか。それが今後最大の課題となるのは間違いない。
 ただし、これは被災地に限ったことではないことも事実。日本全体が人口減少と急速な高齢化が進む中、住民の減少による地域経済や財政規模の縮小、また高齢化による負担増に直面している被災地域はわが国の地方都市問題の縮図でもある。
 農業や漁業を生産・漁獲だけでなく加工・販売まで付加価値をつけることで従来の1次産業から新たな産業である6次産業化することや、再生可能エネルギー導入を引き金に、産業誘致を視野に入れる複数の意欲的な自治体首長からも「基幹産業といっても農業や漁業の就労人口割合はそう多くない。当面、復旧・復興事業などで建設業が地域経済をけん引することに期待している」といった声が上がる。
 もちろん、中長期的には「新たな産業が絶対必要」であり、「今後、復旧・復興を通じた地域の生き残り競争になるのはやむを得ない。競争に負けた地域の住民は気の毒だが、これから本当に首長の政治資質が問われることになる」と見通す首長も。
 一方、今回の震災は全国各地の自治体が取り組む公共事業の優先順位にも大きな影響を与えた。震災前には財政難を理由に対応が遅れていた庁舎の耐震化が各地で急ピッチに進み、電源喪失や大津波を想定した行政機能の業務継続計画(BCP)への取り組みも加速している。真に必要な、また喫緊の社会資本整備として、防災・減災への対応が求められている。

2011/12/22

次世代コンセプトCADを1月発表/ジオプラン

 ジオプラン(本社・東京都新宿区、西澤常彦社長)は2012年1月13日、東京都千代田区の大塚商会本社ビルで、設備設計業務の効率化を追求した次世代コンセプトCAD『Brain Gear(ブレインギア)』シリーズの最新版を発表する。
 同シリーズは建築の標準CADであるオートデスクのAutoCADをベースとし、最新版『Brain Gear Supra 2012』では空調設備や衛生設備に対応した機械設備版を先行リリースする。
 「速く描く」「誰にでも簡単に使える」という生産性の最大化をキーワードに設定し、従来の設備CADに見られる複雑なコマンド群をなくし、オペレーション数の大幅な削減と作図効率化を実現した。また、すべての機器配置、経路作図、機能コマンドのCAD処理部を統合した「ドローイングマネージャー」方式により、管理フォルダーから部品を選択するだけで作図に必要な機能を実行できる。
 同社は最新版について「設計者の思考を妨げず、人間の知的・創造的活動の支援を目的にさらなる作図効率化を追求した」と強調する。
 発表会は無料。問い合わせは、大塚商会建設プロモーション課・電話03-3514-7815。

酸化ケイ砂とCO2でコンクリートに代わる構造材ができる/構造家の今川憲英氏が素材開発

「ico2Lab.」の設立発表会
 地球のどこでも手に入る酸化ケイ砂にCO2を注入することで、コンクリートと同等の圧縮強度(1平方mm当たり25ニュートン=N)と5倍以上の曲げ引張り強度(同20N)を持つ構造体を開発・展開する会社「ico2Lab.」が設立された。代表は、開発の中心になった建築構造家の今川憲英氏(TIS&PARTNERS代表)。作家の丸谷才一氏が名誉会長に就任した。強度の発生にかかる時間もコンクリートの15分の1程度の2日間であることも確認している。CO2を使うことから地球温暖化にも貢献する素材として注目されている。
 開発されたのは、「CO2エコストラクチャー」。開放的で住みながら建築寿命を2倍以上にする耐震補強工法「ISGW」を展開する3者を中心に会社を設立した。型枠に酸化ケイ砂をいれて、CO2を吹き付け、固化したケイ砂にエポキシ樹脂を加えることで構造体ができる。

JR貨物の駅南口開発見直し要請を可決/八王子市議会

 八王子市議会は、第4回定例会で、「八王子駅南口に所在する日本貨物鉄道株式会社所有地に関する決議」を可決した。JR貨物が同駅南口の所有地で医療福祉関連施設の建設を計画していることに対し、中心市街地活性化の観点から施設用途に疑問を呈し、計画の見直しを求める内容となっている。
 同社所有地については、市が南口の核的施設の1つとしてシネマコンプレックス(複合映画館)や商業施設など、中心市街地の活性化に寄与する施設の誘致をこれまで同社に継続的に要請してきた。市議会も動向を注視してきた経緯があるため、決議では、「こうした経過にも関わらず、JR貨物が当該地の活用について、医療福祉関連施設として計画したことについては、誠に残念である」とし、「南口周辺の活性化に資する商業施設等を可能な限り加えるよう、強く求める」としている。
 同社は10月に事業提案型・総合評価方式の一般競争入札を実施し、介護老人保健施設や医療施設などを運営する葵会(東京都千代田区)を代表者とするグループを事業者に選定した。設計を11年度、工事を12年度に発注し、13年7月に施設を完成させ、建設後に土地・建物を事業者に貸し付ける予定になっている。
 建設地は同市旭町30―92ほかの敷地面積約3700㎡。商業地域の土地で、敷地条件から最大で延べ2万4000㎡の建設が可能となる。

2011/12/21

宇宙船イメージした新居千秋設計の「カダーレ」がオープン/由利本荘市

写真提供=由利本荘市
 秋田県由利本荘市が、新たな文化の発信と地域の交流拠点として整備していた市文化交流会館「カダーレ」が竣工し、19日にオープンした。設計は新居千秋都市建築設計、施工は戸田建設が担当した。整備に当たっては、設計段階から市民との対話を重ね、多様な意見を集約した結果、次世代を担う人材を育てる“科学の船”となる宇宙船をイメージしたデザインを導き出した。
 1994年に移転した由利組合総合病院跡地の再開発事業として整備したもので、市内に点在していたさまざまな公共施設を集約した複合施設となる。
 規模はRC一部S造地下1階地上3階建て延べ1万1750㎡。1110席の文化ホールは多機能型可変ホールで、1階部分の可動席を地下に収納し、ワンフロアの展示会などにも使用できる。図書館の蔵書数は最大22万冊。
 このほか、プラネタリウムを備える自然科学学習ゾーンやレストラン、地域物産館、市民交流・休憩スペースとして利用するわいわいストリートなどで構成している。建設地はJR羽後本荘駅前の同市東町。

110トンの直巻能力!?大型浚渫船「ビッグブルー」/東日本復興にも貢献

 大本組と青木組が共同で建造を進めていた全旋回式グラブ浚渫船兼起重機船「ビッグブルー」が完成した=写真。操船の自由度を高め、GPS(全地球測位システム)を活用した高精度・高効率な浚渫が可能になった。太陽光発電システムも備え、災害発生時などには取り外して陸上で使うことができる。国際戦略港湾の整備や東日本大震災の復興などに貢献していきたい考えだ。
 新造船は、長さ56m、幅23m、深さ4・2mの大型作業船となる。クレーン部のジブ長さは28mで、直巻能力は110t。船首と船尾に配備した全方向型の推進装置、船体を固定する3本のスパッドによって、自在な操船を実現する。GPSによる施工管理システムを導入し、迅速に正確な位置に移動できる。
 環境対策では、室内照明などにLEDを採用したほか、大型浚渫船に初採用となる超低騒音マフラーを装備した。クレーンエンジンなどはすべて国際海事機関(IMO)の排気ガス2次規制をクリアしている。デッキに設置した太陽光発電システムは、磁石によって脱着が自在。災害救助船としての活動時には、太陽光発電システムを取り外して被災地で活用することもできる。
 国際コンテナ戦略港湾や国際バルク戦略港湾の整備に伴う浚渫需要、東日本大震災の復興などに投入していく方針だ。

記者座談会・2011年を振り返る 設計、コンサル、設備、メーカー

A 建築界にとって、ことし最大のニュースは、やっぱりUIA(国際建築家連合)2011東京大会の成功だね。
B 日本建築界の長年の夢だったからね。東日本大震災の影響もあって、当初見込んでいたより参加者は少なくなってしまったけど、それでも海外から2000人近くが訪れた。プログラムも充実していたし、大きなトラブルもなく終えることができたと思う。
A この大会を機に建築界は変わっていくのかな。
B 急には変わらないだろう。今回は国内、特に若い人の参加が少なかった。せっかくの国際大会に若者が興味を示さない状況をみると、これからもっと進むと思われる国際化への対応が課題といえる。それともう一つ、団体間の連携、連帯がどう進むのかがポイントだ。共同宣言が絵に描いた餅にならないよう、継続して協議の場をつくらないとだめだね。
A 建設コンサルタント業界はどうだったの。
C ことし最も大きな話題になったのは、7月の長大による基礎地盤コンサルタンツの買収だね。買収という意味では、2004年に日本工営が玉野総合コンサルタントを傘下に取り入れて以来の大型買収と言えるのではないだろうか。
A それにしてもことしは、M&A(企業の合併・買収)や提携が目立ったね。
C 6月に日本工営がアイドールエンジニヤリングから事業譲受、10月にACKグループとオリエンタルコンサルタンツ、パシフィックコンサルタンツグループの3社による海外民間市場をにらんだ提携、12月に建設技術研究所と建設技研インターナショナル、トーニチコンサルタントの3社による海外鉄道市場をメーンとした提携など、大手の動きが活発だったのも特徴だ。当面は東日本大震災による需要増が見込まれるが、その先の将来を見据え、合従連衡はまだまだ来年も続きそうだ。
A 設備業界はどうだった?
D 「節電の夏」に象徴されるが、電気も空調も昇降機もユーザーの対応に追われたようだ。空気調和・衛生工学会や日本空調衛生工事業協会が喫緊の節電対策、中長期にわたる節電対策を提案した。
A エネルギー消費の中でも空調はウエートが高いからね。
D 急場は「がまん」で凌いだ感もあるが、この冬もそうだけど、来夏ばかりか、しばらくは電力の需給バランスに不安が残るだけに、息の長い取り組みになりそうだし、それだけにユーザーの関心も高い。
A 公益法人改革の動きもあった。
D 4月に日本電設工業協会(林喬会長)が大手全国団体の先陣を切って一般社団法人に移行した。電子理事会の導入で運営を効率化したり、秋の会員大会では登録基幹技能者の処遇改善案を打ち出した。
A メーカー関連で気になる動きは?
E やはり4月1日付で発足したLIXILが一つのエポックだった。トステム、INAX、新日軽、サンウエーブ工業、東洋エクステリアの5社が合併して、国内市場向けの製造業からグローバルな「住宅総合ソリューション事業」へと挑戦を始めた。
A ダイナミックな動きだったね。
E 8月1日付でLIXIL社長に就任した藤森義明氏は、前任が日本ゼネラル・エレクトリック(GE)代表取締役会長。米国GE最高経営責任者(CEO)だったジャック・ウェルチ氏から多大な影響を受けたという。藤森社長は12月初旬、イタリア大手カーテンウオールメーカー「ペルマスティリーザ」を完全子会社化、グローバル戦略展開に大胆さを発揮した。

2011/12/20

世界最大の社会実験「東京ユビキタス計画・銀座」にスマホ導入

 東京都と国土交通省は、ユビキタスID技術を活用した「東京ユビキタス計画・銀座」実証実験にスマートフォンを取り入れた。専用のアプリケーションソフトをスマートフォンにインストールすることによって、現在、自分がいる地点の周辺情報を手軽に入手できる。12年1月末からは機器の貸し出しも始め、特に外国人観光客の案内に役立てる予定だ。これほど大がかりな社会実験は、世界でも日本だけだ。
 この計画は、ICチップなどにより、高精度の位置情報を提供できる情報インフラを整備し、誰もが安心してまち歩きを楽しむことができるユニバーサルデザインのまちづくりを目指し、2005年度から取り組んでいる。
 実験の対象範囲である銀座4丁目周辺には、約1000個のマーカーやICチップが設置されており、このマーカーなどを通じて情報をやりとりすることにより、自身のいる場所を高精度に識別することが可能だ。このため、徒歩で移動する際の道案内などの情報をより正確に得ることができる。また、非常時には緊急避難場所への誘導指示にも利用できる。
 このほか、ICチップには地下構造物の情報も埋め込み、専用の読み取り機を使うことで、即座に現地の配管などの情報を得ることもでき、公物管理にも有効だ。
 実証実験の概要説明を行った坂村健東大教授によると、この規模で情報インフラを整備した実験は世界でも例はなく、世界から注目を集めており、今後、日本が世界をリードして行きたいと語った。14日から始まった「TORONSHOW2012」では、実証実験の結果をヨーロッパのコンソーシアムと共有する取り決めに調印した。

比企業招きBIMマネージャー学ぶ/建築学会情報システム技術委

 日本建築学会の情報システム技術委員会は「BIMマネージャーに期待する職能」というテーマで研究集会を開いた=写真。16日に東京・芝の建築会館で開いた第34回シンポジウムの一環。3次元CADによるBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)を全社で導入に成功したフィリピンのAIDEA社からアベラルド・トレンティノ社長を招き、BIM導入時の苦労やマネージャーの役割について学んだ。
 アベラルド氏によると、マネージャーの役割は、ソフトウエア全般の選択や企業内BIMのマネジメント、教育、サポート、プロジェクトごとの決まり事を整備すること、そしてBIMに関する知識を社内共有することだという。
 国内の企業がBIMを導入しても、申請や納期に追われて2次元のファイルに手を加えるような局面が発生するケースもある。しかしアベラルド氏は、3次元図面のマスターを必ず修正して2次元で取り出すようにすべきだという。さらには、トップの意識改革が重要だと話した。
 その後のディスカッションでは、三菱重工業の大脇茂弘、日建設計の奥山隆平、前田建設の綱川隆司、竹中工務店の森元一、BIMアーキテクツの山際東の各氏が加わって、自社のBIMへの取り組みや課題について話し合った。この中では、サブコンも含めたルールづくりの必要性や、サーバー内部のデータのアクセス権限についてなどが話し合われた。

2011/12/19

「被災前の自宅写真がほしい」/前後を記録した空撮写真集が発刊

 東北建設協会(菅原政一理事長)が被災前後の空中写真データを提供した写真集『大津波襲来・東日本大震災 ふるさと石巻の記憶 空撮3・11 その前・その後』が、三陸河北新報社から発刊された。宮城県石巻市21カ所と東松島市3カ所、女川町5カ所の計29カ所の被災前後の空中写真が掲載されており、ふるさとの貴重な思い出や、津波の猛威を風化させないための資料として活用されそうだ。
 震災発生から時がたつにつれ、「流出する前の自分の家が写っている写真がほしい」といった被災者の声が同社発行の朝刊『石巻かほく』に多数寄せられたことから、岩手・宮城・福島3県の約180カ所の被災前後の空中写真を所有している東北建設協会の協力を得て編集した。
 同協会では6月に大震災への対応を記録したパンフレットを発行しており、岩手県宮古市から福島県相馬市にかけて撮影した沿岸部の被災前後の空中写真を紹介。この写真が反響を呼び、増刷を重ねてこれまで約1万2000部を一般・大学・関係機関などに無料で頒布している。
 今回の写真集への協力について同協会では「各地域の被災前の姿を見ることで、復興への希望につながればと思い、写真を提供した。石巻地区以外の写真についても、要請があれば協力していきたい」としている。
 写真集はA3判の大型サイズで、上下に開いて各地域の震災前後の様子を見比べることができる。60ページ、オールカラー。販売価格は1000円(税込み)。売り上げの一部は義援金として寄付する。問い合わせは三陸河北新報社事業部(電話0225-96-0321)。

関東最大級の木造校舎上棟/国産カラマツの構造用集成材を駆使

 国産カラマツの構造用集成材を駆使した茨城県守谷市の「守谷小学校校舎改築」の上棟式が16日、児童約200人が参加して行われた=写真。
 この小学校は、関東最大級の木造校舎で、内装材もすべて県産材をふんだんに使っている。2012年7月末の完成、同年度2学期からの供用を目指す。設計・監理はレーモンド設計事務所が担当。建築を清水建設・松丸工業JVが施工している。
 式典の冒頭、会田真一市長が「現場では柱の太さに驚いた。最近は棟上げがあまり見られなくなったが、児童の皆さんは上棟式を目に焼き付けてこういうことがあったと思い出してほしい」とあいさつ。
 三浦敏信レーモンド設計事務所代表も児童らに対し「上棟式は大工さんがここまで来たことへの感謝や、100年以上持つよう火事や地震にあわないようにとやります。餅もぜひ受け取ってほしい」と語り掛けた。
 規模は木造一部RC造2階建て3棟総延べ7455㎡。三井住商建材のサミットHR工法を採用している。工事場所は守谷市本町地内。
 建築以外の施工は、電気設備を栗山電気・イイジマ電気・弘和電気工業JV、機械設備を暁飯島工業・浅井設備工業JVが担当している。

山設計工房を特定/都市機構がストック改修にBIM利用へ

都市機構の入居する新宿のビル
 都市再生機構東日本賃貸住宅本部が進めている賃貸住宅改修へのBIM利用プロジェクトで、利用方策の検討業務委託先が山設計工房(東京都千代田区)に決まった。これは「平成23年度ストック改修に係る電子化利用方策検討業務」として総合評価一般競争入札したもの。
 国土交通省では営繕事業の新築工事にBIMを適用し始めているが、維持管理段階に利用できれば初のケースだ。
 同本部は賃貸ストック住宅の改修事業でBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)手法の利用可能性を探る考えで、図面などの建物情報を3次元データ化した場合に業務上でどのような課題と可能性があるかを検証していく。
 今回の業務ではソフトの情報収集、公的事業や民間企業における3次元データの活用状況を調査する。また、改修工事にどの程度まで利用可能かを調べ、3次元の住棟データを使い、新たな改修案を検討する予定だ。履行期間は2012年3月10日まで。
 同機構は導入効果として「効率化や意思疎通につながるのでは」とする一方で、「調査の結果次第では導入検討の土俵にすら乗らない可能性もある」と慎重な姿勢も示している。

2011/12/16

隈研吾事務所と仏ブイーグ社がリヨンでグリーンビルを建設

 フランスのゼネラルコントラクターブイーグ社と、隈研吾建築都市設計事務所のグループが、フランス・リヨン再開発地区でスマートコミュニティモデルビルの設計と建設を担当することになった。
 これは、日本の新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が来年1月から2015年にかけて、実証実験を行うもので、リヨンコンフルエンス再開発地区に「ポジティブ・エナジー・ビルディング」を開発する。
 日本側の企業連合として東芝と東芝ソリューションが参画、グランドリヨン共同体(議長=ジェラルド・コロン・リヨン市長)が地元協力者との調整を中心にプロジェクトに関与する。
 モデルビルのP-plotは、再開発地区内の第1フェーズ中核地区の総面積1万2500㎡の街区に建設する。規模は地下1階地上8階建て延べ約1万2500㎡。オフィス、商業、住居エリアで構成する。リヨンの建築施工会社SLCピタンス社と建築設計事務所CRB社が協力する。
 フランスを始め、EU(欧州連合)の各国が2020年以降に建築するビルはすべて、「エネルギーポジティブ」にするとみられ、実証成果を欧州全体に展開する。全体の想定予算総額はおよそ5000万ユーロ、日本円で約50億円。

「多矛盾系」に可能性がある/内藤廣氏が木造建築の利点解説

 木造建築には可能性がある--。建築家の内藤廣氏は、環境にもやさしい木造の可能性を広げていくために「行政が模範を示す必要がある」と、公共建築への積極的な活用を訴えている。
 「20世紀の建築は、木造を排除し続けてきた」。それは木造が持つ「弱さを扱いきれなかった」ためだ。鉄骨や鉄筋コンクリートの建築は「部分破壊が即、全体の破壊につながる」が、木造は「おそらく部分破壊しても、すぐには全体が破壊しない」。弱くて強い、矛盾に満ちた木造の複雑さを内藤氏は「多矛盾系」と呼ぶ。だが矛盾をはらんでいるからこそ、最先端の技術でも十分に解明できていない新たな可能性があると強調する。
 一方で木造建築の普及は、「建築行政だけでは解決できない」とも。防火・耐火基準を始めとする規制を根本から見直し「建築家の側も、木造とは何かを問い直す必要がある。木造の本質を理解し、育てていく必要がある」と指摘している。

戦前のファサードを曳家で保存/オリックス不が淀屋橋のマンションで

 オリックス不動産は、大阪市中央区で建設を進めている分譲マンション「淀屋橋プロジェクト(仮称)」の外壁に、戦前から残る近代建築のファサードを保存・活用する=写真は完成予想。1918年に大阪農工銀行として竣工した八木通商ビルの建て替えに当たり、外壁のみを補強した上で曳家する。施工は鹿島が担当。7月から新築工事に着手しており、2012年6月から8月の間に曳家を実施する予定だ。新築するマンションの外壁に保存した近代建築を活用する事例は関西では初という。
 八木通商ビル(旧大阪農工銀行)は、辰野金吾が設立した辰野片岡建築事務所が設計。その後、1929年に國枝博が改修設計を手掛け、アラベスク文様のテラコッタで覆われた外観が印象的な建物となっている。
 建物は保存する外壁のみを残して解体。曳家は外壁の補強を終えた後に実施する。1カ月程度かけて合計で約3mを移動、曳家を採用することで外壁の装飾や曲線美などを損なうことなく保存できるとしている。
 建物がある三休橋筋は、大阪市中央公会堂や綿業会館など近代の名建築が数多く残ることで有名。今回建て替えるビルもこうした景観を形成する重要な要素となっていることから、同社では外壁の保存活用を決めた。
 同プロジェクトでは総戸数60戸、地下1階地上13階建て延べ約5600㎡規模のマンションを建設する。設計はIAO竹田設計が担当。建設地は同区今橋3-20-1の敷地774㎡。

2011/12/15

高田松原の「希望の松」クローン技術で後継樹育成に成功/住友林業ら

順調な生育を見せる「希望の松」
 住友林業と住友林業緑化が、東日本大震災の津波被害を受けた岩手県陸前高田市の高田松原で1本だけ残った「希望の松」の後継樹育成に成功した。希望の松そのものは長時間の浸水で枯死が避けられないが、この松から採取した枝を基に接ぎ木によるクローン増殖の苗と種子からの実生苗(みしょうなえ)が順調に生育している=写真。
 陸前高田市の応援要請で、日本造園建設業協会岩手県支部が中心になって、プロジェクトチームが結成され、住友林業が後継樹育成チームの中心となった。同社が筑波研究所で取り組んできた枯死の危険があった桜の組織増殖などが評価された。接ぎ木苗と実生苗は今後、同社で育成し、復興計画が決まれば移植されることになりそうだ。同社は、「将来、陸前高田市の復興のシンボルツリーになれば」としている。
 陸前高田市では、市の復興計画案で海とも共生する「海浜新都市の創造」を掲げている。奇跡の一本松にの存在も基本理念に取り入れているため、今後のまちづくりにおいても今回のクローン種苗が担う役割は大きい。

「いつものシステム」が、災害時に威力発揮/長大がスマホ使った画像データ共有システム

 長大は、道路や河川などの維持管理業者が現地で撮影した画像データを、リアルタイムで情報共有する「ESIS(イーシス)」システムを開発した=写真。東日本大震災など広範囲な災害時に、現場の状況が迅速に把握できるため、国や地方自治体も関心を示している。
 システムはシンプルで、維持管理業者が携帯電話で現地の状況を撮影した画像データをサーバーに送信すれば、発注者も即座に画像を確認できる。画像データにはGPS(全地球測位システム)で測位した位置情報も付いており、場所を地図上で確認できる。
 業者にとっては、省力化、コスト削減のメリットだけでなく、写真の間違いといったミスもなくなる。同社は2010年度、道路の維持管理業務向けに現場でのニーズを把握するため、北海道で先行サービスを実施、好評を得た。
 東日本大震災を踏まえ、災害時にも活用しやすいように開発に取り組み、データの通信容量が大きいスマートフォンやタブレット端末も活用できるようにした。この結果、巡回車両にこうした情報機器を載せておけば、リアルタイムで地図上の道路に巡回実績を表示、災害時にはどのルートの通行が可能かが分かる。
 システムのメリットは、日常の維持管理業務に使っている技術を、災害時にそのまま利用できることだ。マニュアルや必要な機器を探したりする必要がなく、即座に対応できる。発注者の要望があれば、ホームページや地上デジタル放送に、通行可能道路の地図データといった被災状況も提供できる。

猪瀬副知事と馬淵元国交相が外環整備めぐり「場外乱闘」!?

 東京外かく環状自動車道(外環)の整備手法をめぐって、東京都の猪瀬直樹副知事馬淵澄夫衆議院議員の間で「意見対決」が起きている。
 道路公団(当時)民営化時に政府の委員会の委員を務めた猪瀬副知事は、今回国交省の高速道路のあり方検討有識者委員会が「税負担の活用」を打ち出したことについて、「馬淵澄夫国交相(当時)が難癖を付けて合併施行できなくなっていた」という意見を一部報道で発表した。
 これに対し馬淵澄夫衆議院議員は、自身のブログで合併施行方式を問題視したのではなく、料金を設定する際の基礎となる将来交通量の予測が課題で、「高速道路会社による建設投資は、料金所、管理施設など極力最小限に抑えるべき」と反論を掲載した。
 両者とも「合併施行方式」に異を唱えたわけではなく、合併施行方式の採用による早期整備には積極的な賛成論を展開しているので、これは整備の是非とは別の「場外乱闘」の様相だ。

2011/12/14

参加無料です。uia2011東京大会振り返るシンポジウム 参加受付中!

 建設通信新聞社では、12月20日15:00から文化シヤッターBXホールで、uia2011東京大会振り返るシンポジウムを開催します。入場は無料で、UIA2011東京大会日本組織委員会会長の小倉善明氏、UIA元副会長の岩村和夫氏、UIA2011東京大会日本組織委員会学術部会長の古谷誠章氏が講演します。
 パネルディスカッションでは、芦原太郎氏、和田章氏、藤本昌也氏、三栖邦博氏、野呂一幸氏が、「日本の建築界の未来」をテーマに激論を交わす予定です。
 ご参加は、事前の申し込みをお願い申し上げます。
 氏名、所属機関・企業・学校名、FAX・電話番号を明記のうえメールかファクスで「UIA15シンポ係」宛に申し込みください。入場整理券をお送りいたしますので、当日会場へご持参ください。定員になり次第締め切ります。
 ファクス03-3259-8730。メールuia-15@kensetsunews.com
 シンポジウム終了後には隣接ロビーで懇親会を開催します。参加希望者は、シンポジウムと同時に事前に申し込みください。参加費は3,000円ですが、学生の方は、学生証の提示で1000円にて参加できます。当日受付でお支払いください。
 後援は、日本建築家協会、日本建築学会、日本建築士会連合会、日本建築士事務所協会連合会、日本建設業連合会、建設コンサルタンツ協会、日本建築積算協会、日本建築構造技術者協会、再開発コーディネーター協会、全国市街地再開発協会、国際観光施設協会、NPO法人・美し国づくり協会(一部予定)で、継続職能研修(CPD)認定プログラムも申請中です。

東電の発注に競争性を導入、10年で5118億削減へ/原賠機構が改革行動計画

 東京電力が発注する資材や役務の発注に、競争性原理が導入される。この計画で、10年間に5118億円のコスト削減を図る目標だ。
 東京電力と原子力損害賠償支援機構が9日に策定した「改革推進アクションプラン」で明らかにされたもので、外部との取引構造・発注方法の見直しでも、分離発注や新規業者の参入余地拡大などが明記され、2012年度から実行に移す方針が示された。
 発電所建設についても、競争可能な設計・仕様に変更する。発注先候補を選定した上で、14年度から新たな基準に基づいて主機発注する。電力会社を横断した設計・仕様の統一も視野に、12年2月から他電力会社へのヒアリングに入る。
 関係会社との取り引きでも、競争性のある発注方法を拡大。市場価格を意識した交渉を実施し、発注方法を12年2月にも改める。
 このほか、不動産売却では11年度内に152億円を捻出し、今後10年間で2472億円を確保する計画を盛り込んだ。

型枠大工の高齢化加速が実態調査で明らかに/10年後は55歳以上が4割超

型枠大工就労者の未来予測
 型枠大工の減少と高齢化が加速しているが、日本建設大工工事業協会(三野輪賢二会長)がまとめた型枠大工雇用実態調査で、実態がさらに明らかになった。調査結果では、その要因として3K(きつい、汚い、危険)よりも低賃金を挙げ、東日本大震災からの復興にも影響を及ぼすことを危惧(きぐ)する。
 調査は、8月31日を調査日として、9月15日から10月21日に調査用紙を回収、非会員2社を含む187社から回答を得た。回答数が異なるため単純に比較することは難しいが、就業者数は前回調査が1万1637人で、今回の調査では1万0373人と、回答企業数の減少を勘案しても大幅に縮減している。
 年齢別の構成比率をみると、45歳から54歳が全体の24・9%を占め最も多く、次いで55歳から64歳の24・4%、35歳から44歳の23・8%。65歳から74歳は前回調査の9・2%から6・4%に2・8ポイント低下したものの、15歳から24歳の比率も6・6%から5・5%に1・1ポイント低下している。55歳以上が30・8%と型枠大工就労者の約3分の1を占める。
 総務省統計局がまとめている、労働人口の年齢層構成比と比較してみると、全産業の平均値で34歳までの就労者の占める割合が27・5%なのに対し、型枠工は21%に過ぎない。一方、28・7%と全産業の平均が3割を下回っているのに対し、55歳以上は3割を超える。
 また、現在、中核となっている35―54歳の年齢層が5割を占めていることから、5年、10年後には一層、高齢化が進んでいることは確実で、若年者が入職を希望する魅力のある労働条件、労働環境を早期に実現し、技術・技能の継承を図る必要がある。

東北では震災復旧も影響

 東北地域の型枠工減少の要因には、東日本大震災の復旧も影響しているという。震災に伴い、工事が中断・遅延する間に、がれき処理や復旧工事に伴う土木・住宅関連の求人が増加していることもあり、型枠技能工の賃金との格差が拡大したため、他職への転職や引き抜きが増加している。さらに、首都圏の型枠大工工事業者によると、東北の出身者からは「ことしの帰省以降、地元に戻りたい」との申し出が増加しているとの報告もあるということから、首都圏での型枠大工の不足も深刻さを増すことが懸念される。
 調査結果から、型枠技能工の年間平均賃金をシミュレーションし、交通費や工具、作業着などの年間必要経費を36万円として控除してみると、職長レベルで年収275万円、技能工で233万円程度にしかならないというのが現状で、低賃金が型枠工事業界の疲弊につながっていることは明らかだ。
 型枠工事就労者数の予測では、5年後の2016年には55歳以上が37%を占め、10年後の21年には4割を超えると見通す。逆に15―44歳は39%、34%と、体力・気力とも脂の乗る20歳代後半から45歳くらいまでの世代の型枠大工はますますいなくなり、3人に1人となる勘定で、現場の生産性にも大きく影響してくることは想像するに難しくない。

東京外かく環状道の整備手法が、結局振り出しに戻る!高速会社と国・自治体で合併施工

 東京外かく環状道路(外環道)練馬~世田谷間(16㌔)の整備方式が振り出しに戻った。松原仁国土交通副大臣は12日の会見で明らかにしたもので、高速道路会社が料金収入を基に行う有料道路事業と、国・東京都の負担による直轄事業を組み合わせて進めると話した。自公政権が決めた「合併施行方式」と事実上同じ手法で、迷走の末、結局初めの方式に戻った格好だ。
 会見で副大臣は「有料道路事業を基本とし、不足分は直轄事業として(税負担を)活用していきたい」と述べた。外環道は、都心から約15㌔の圏域を環状に結ぶ高速道路。練馬~世田谷間は40m以上の大深度地下に建設し、事業費は約1兆2800億円に上る。
 自公政権下の2009年4月、会社と国・自治体が費用を分担する「合併施行方式」による建設が決まったが、政権交代後、前原誠司国交相(当時)が整備手法の見直しを主張。休日上限1000円などの通行料金の割引財源を転用して建設する案を代わりに提示したが、10年の臨時国会で関連法案が廃案となり、財源のめどが立たない状況が続いていた。

2011/12/13

C2首都高中央環状線が、本当の環状線に/品川線のシールドトンネルがついに到達

掘進中の品川線シールド
 首都高中央環状線C2が本当に環状線になった--。東京都と首都高速道路会社の合併施行で整備を進めている中央環状品川線で、都が発注、大成建設・大豊建設・錢高組JVが施工するシールドマシンが、終点である新宿線との接続部(目黒区青葉台)に到達した。
 中央環状品川線は品川区八潮3丁目から目黒区青葉台4丁目までの9.4㌔。全線47㌔に及ぶ中央環状線の最終区間となる。C2と呼ばれる中央環状線は、大橋と品川の間が工事中で、まだ環状線になっていなかった。
 都は大井北立坑から中央環状新宿線接続地点までの本線約8㌔の地下トンネルをシールド工法で構築。2009年11月の発進以降、順調に整備を進めてきた。シールドトンネルの規模は外径12.3m、掘削延長7,966.7m。東京都は引き続き、トンネル内の道路床版や4カ所の換気所の建築、設備工事を進め、13年度末の完成を目指して整備を進めていく。

緑化計画にコンピューティショナル・デザイン導入/アンズスタジオの竹中司代表

アンズスタジオの竹中司代表
 環境をカタチにするコンピュテーションの力--。アンズスタジオの竹中司代表は、コンピューターで関係性を解き、新しい建築の姿を創出する取り組みを進めている。
 設計の電子化は、CADが広く普及させている。竹中氏は「手仕事を超えたコンピューターならではの仕事がコンピューテーショナル・デザインとなる」とし、一つひとつをCADで描くのではなく、さまざまな要素に従ってコンピューターにモデル生成させる。単に複雑でデザイン性の高いものを追求するだけでなく、環境につながるデザインの取り組みを進めるのが竹中氏の特徴だ。
 千代田区神保町のオフィスビルでは風と光の動きを表現する「木漏れ日空間のデザイン」を実現した。森の中の葉っぱから落ちてくる光の量をパラメーター化し、ファサードに落とし込んだ。風によってファサードが動く仕組みと合わせ、都市に森林のリズムを取り込んでいる。
 また、ソニーシティ大崎(東京都品川区)のランドスケープ計画は、都市にある自然を感じられる森をテーマに掲げた。そこで採用した「種まきプログラム」は、植物の根を守る道と、根によって壊されない道のデザインをコンピューターを使って最適化した。
 「30年間の木の成長を見守りながら、設計段階で3次元の情報を組み合わせ4次元的にシミュレーションした」と、最適な木の配置によって本物の森に近い空間を創出した。竹中氏は「コンピューターの枠を超えて、思考の流れをデザインする。その手法を発信したい」と、さらに新しい建築デザインの創出に挑む。

大地震でも天井材落下をクリップだけで防ぐ/西松建設、戸田建設ら

 地震時、体育館や空港などの天井材落下が問題になっている。この問題をクリップだけで解決する工法が登場した。西松建設、戸田建設、八潮建材工業が、共同開発した天井脱落防止技術「耐震クリップ工法」だ。
 同社らは今回、実際に振動台で天井材を揺らして、その限界耐力を確認した。実験の結果、脱落時の加速度は水平方向が3600ガル以上、鉛直方向が5400ガル以下となり、水平・鉛直方向の加速度が2000ガルまでは天井面を安全に保持できる結果となった。この工法はすでに東日本大震災以降、数十件の工事に採用されており、限界耐力の立証により工法の優位性をさらに発揮できるとしている。
 天井脱落は、野縁と野縁をつなぐクリップの損傷に起因する。地震時に屋根が縮んだり、膨れたりする現象によって天井の揺れが増幅し、クリップが連鎖的に外れる。耐震クリップは既存クリップの上から補強する技術。ワンタッチで設置できる点が特徴だ。
 一般的に天井の耐震性は水平方向1000ガル、鉛直方向500ガルで設計されており、これまでの実験では従来の天井工法に比べ、約2倍の地震入力でも損傷しないことを確認済みだったが、その限界値は検証していなかった。
 振動台実験では、水平方向3600ガル、鉛直方向1500ガルの加速度でクリップが外れなかったものの、水平方向3600ガル、鉛直方向5400ガルでは耐震クリップが野縁受けから外れ、天井ボードの一部が脱落した。3社は「大きな鉛直方向の振動が影響する」とし、「水平・鉛直方向の加速度が2000ガルまでは十分に天井面を保持する」と判断した。
 今後はあらゆる条件下でも対応するために工法の適用範囲を拡大し、段差天井や斜天井などでも実証実験を進める方針だ。
→戸田建設のサイト

2011/12/12

2500分の1地図の詳細データ提供へ/国土地理院 官民問わず活用積極化


同院のポータルサイト
  国土地理院は、同院が保有するGIS情報の積極提供を始める。同院の「基盤地図情報」では、全国の都市計画区域10万平方㌔のうち約9万平方㌔について、2500分の1の詳細データを提供する。民間向けには、来年7月から電子国土基本図のベクトルデータの提供を始める。基盤地図情報は現在、JPGIS形式でしか提供していないが、一般的に使われているフォーマットでも提供できるようにする。
 これは民間や行政機関を問わないGIS積極利用のアクションプランを策定したもので、『フレッシュマップ2011』と呼ばれ、国土地理院が10月に策定し、2013年度末までの活動内容を盛り込んだものだ。
 地図情報も電子化が進み、利便性は格段に上がっているにもかかわらず、行政機関などの利用者側が使いこなせていない現状がある。地理空間情報活用推進基本法の制定から4年余り。同院の岡本博院長は「ツールは出そろいつつあり、整備から更新・活用の段階にきている」とし、自治体への普及拡大や関連民間企業との連携強化に意欲を示す。
 同院のメーンツールの「電子国土基本図」は、ことし2月に本格運用を開始。そして、すべての地図の基となる基盤地図情報の高精度化も進んでおり、縮尺レベル2500分の1のデータが11年度内に概成する。
 公共施設の整備主体にとっても、「完成物を地図に正しく載せることは大切な視点のはず。せっかくつくったものの効果を発揮するには、まず知ってもらうことが第一だ」。いずれは、「工事段階から情報をもらい準備しておき、完成と同時に更新する」など、スピーディーな情報提供体制の確立を目指す。
 高度化・迅速化された地図情報は、業務の効率化やサービスの充実だけでなく、防災面での活用も大いに期待される。「最新の情報になっていれば、緊急輸送路の確定や迂回路の選択に役立つ」というわけだ。都市計画や生活、災害情報など、さまざまな情報を重ね合わせられることも利点で、「がけ崩れの場所、けが人を搬送する病院、その近くにあるヘリポートをすぐに調べられる」と活用術の一端を披露する。
→同院のポータルサイト

大林組、ICTで現場の「朝礼」廃止!?/移動減らし労務歩掛り向上

実際の朝礼システム
 大林組が、毎日の朝礼を効率化するシステムを都内の建築現場に初適用した。従来はゼネコン職員などが口頭で説明していた内容を大型液晶画面とスピーカーで放送する。10分ごとに同じ内容を流し、全員がそろう必要がない。朝礼を終えた作業員は順次、持ち場に移動できるため、エレベーター待ちなどの時間が減り、労務歩掛りが向上する。職員や作業員の評判も良いことから、都内の大型建築現場を主体に導入を拡大する。
 アクトエンジニアリング(本社・東京都港区、石井春海社長)の現場支援サービス「朝礼システム」を適用した。導入したのはパレスホテルが建築主の「パレスホテル建替計画」(東京都千代田区)のホテル棟の現場。前日に打ち合わせした内容を、パソコンで入力し、翌日の朝礼で放送する。入力した内容は画面に表示するとともに、自動で女性の声で読み上げる。
 朝礼は朝7時からの1時間で、ホテル棟2階にある大宴会場になる予定のスペースで行う。10分ごとに同じ内容を4台の大型液晶画面で繰り返し流し、ホテル棟担当の作業員約1000人は現場の到着順に視聴する。当日の立ち入り禁止区域や人員輸送、注意・伝達事項などの内容を確認、終えた人から持ち場に移動する。
 ことし6月にシステムを導入した。一斉に集まらず、時間を分散することで作業員の移動を効率化する。このほか、1000人が一堂に集まる場所を確保することが難しかったことも初適用の理由。
 導入の数知的な効果は集計中だが、社員や作業員を対象に実施したアンケートでは「内容に集中できる」など評価する声が多かったという。ほぼ同じ人数の作業員が働くオフィス棟の現場は、従来と同じ朝礼を行っており、導入効果を比較検討する。
 エレベーター待ちを解消できる効果が大きいことから、同社は都内の20階建て以上の超高層ビルを主体に導入を拡大していく。

階高設計変更機能など次バージョンから追加/VectorworksがBIMに本腰

 CAD大手のエーアンドエー(東京千代田区)は、「Vectorworks」ユーザーのBIMに対する取り組みを支援するため、AR(拡張現実)機能の追加や階高設計変更への対応機能などを2012年1月13日に発売する新バージョンに搭載する。加えてNYKシステムズ、アドバンスドナレッジ研究所の2社のソフトなどと情報連携を深める。8、9日に東京都渋谷区の恵比寿ザ・ガーデンホールで開かれた「VectorworksSolutionDays11」で発表した=写真。
 ARを使った機能では、カメラに写った「ポインタ」と呼ばれるシートの上に、Vectorworksから抽出した3次元モデルを表示することで、手のひらでスムーズに回転させたり、意外性のあるプレゼンテーションが可能になった。
 新バージョンの「2012」シリーズのうち、BIM支援CADと銘打った「Architect」、最上位版の「Designer」では、フロア高を含んだ設計変更に側座に対応できる「ストーリ機能」や、時間帯と都市を指定して太陽光による影をシミュレーションできる「太陽光設定」ツールなどを搭載。
 汎用版の「Fundamentals」を含め、3次元空間上での採寸や、重なった図面をキー1つで透過するX-Rayモードも搭載された。取引先や顧客とのバージョン違いで問題が生じないように、5バージョン前のデータまで読み込み可能にしている。

2011/12/09

AACA賞にシーラカンスの「宇土小学校」

 日本建築美術工芸協会(aaca、中島昌信会長)は7日、東京都港区の建築会館で第23回設立記念会と協会賞の表彰式を開いた。第21回AACA賞には、宇土市立宇土小学校(シーラカンスアンドアソシエイツ)が選ばれ、小嶋一浩氏、赤松佳珠子氏らに表彰状が贈られた。第10回芦原義信賞は該当がなかった。
 宇土小学校は「限りなく外のような学校」をコンセプトに、開口部をできるだけとることで教室が外まで拡張する空間を創出している。受賞者あいさつで、小嶋氏は「児童が建築にいきいきとかかわってくれている。建築を出来事ととらえて設計してきた。今回、小学校でAACA賞を受賞できたことがうれしい」と喜びの言葉を述べた。選考委員長の澄川喜一東京芸大名誉教授は「創造にかける強い意欲と新しいアイデア、工夫に創造力の無限の未来を感じた」と総評した。

BIMとLEEDの連携/アメリカ建築家協会(AIA)から講師招く/オートデスク、ベントレー

 在日米国大使館商務部と、CAD大手のオートデスク、ベントレー・システムズは7日、東京都港区のアメリカンクラブで、BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)とグリーンビルディングに関するセミナーを開いた=写真。アメリカ建築家協会(AIA)日本支部から講師2人を迎え、日本のCASBEEに当たる「LEED(環境配慮型建築認証制度)」の最新情報や、BIMとLEEDの連携について講義した=写真。
 米国大使館のマーク・ワイルドマン上席商務官は「日本にも浸透を始めたBIMは、グリーンビルディングの普及にも大きな役割を担える。さらにLEEDと連携させれば、日本におけるグリーンビル普及・実現に大きな力となる」とあいさつした。
 建築家でAIA役員も務めるマイケル・ミラー氏は、LEEDという制度が20カ国に普及しており、3万以上のプロジェクトが登録され、8000を超える案件に証書が出されたと説明する。同氏はLEEDの認定技術者でもある。
 また、AIA日本支部で、久米設計建築設計部の織部晴崇氏が日米発注者のBIM利用状況について基調講演し、主催者のオートデスクから近藤伸一AECソリューションコンサルタントマネージャーと、ベントレー・システムズから五十嵐和彦部長が、自社の考えるBIMについてのアプローチを講演した。

記者座談会・被災地の入札不調は技術者不足が要因

 東日本大震災の復旧・復興工事の発注が本格化してきたけど、応札者不在の入札不調が急増しているようだね。
 今のところ、宮城県では明らかに不調が多いけど、岩手県はまだ発注が多くない。地域全体的には、まだせっぱ詰まっているという感じではないようだ。ただ、東北地方整備局の発注などが本格化する年明けの発注では、応札者不在の問題が本当に深刻化するかもしれないという不安が、地元にはある。
 原因は、技術者と技能者の不足という話だけど。
 不安の要因の一つは、技術者・技能者が足りなくなるかもしれないということ。今起きている不調の要因は、技術者は建設業法の「3カ月雇用」の規定があるから、入札に参加したくても、専任する技術者がもういないという話がある。でも、本当に専任する技術者が不足している企業もあるだろうけど、専任の技術者はいるけど入札に参加する工事を選んでいるという話もある。もし、もっと利益の出る工事を、と考えて応札を控えているなら、それは発注ロットの設定方法とか、発注者側の問題だ。
 コストアップ要因を見据えて応札しないとか、利益が上がらない工事には参加しないという意志を企業側が入札不参加という形で表現するのは良い傾向だ。まともな感覚になったとも言える。
 発注者側の東北地方整備局は、復旧・復興関連工事の入札の特例として、分任官契約を6億9000万円まで拡大して、一部の土木工事では本来、B等級対象の工事にC等級も参加できるようにする。でも、これはあくまで特例で、今のところ件数はかなり限られている。国交省直轄ではまだ災害査定が終わってないため、予算の個所付けがされていないこともあって大規模工事はまだこれからだ。
 その対応に地元業界から「非常に助かる」という声が聞こえてきた。通常ならC等級の工事2件のものを、B等級工事1件にしてC等級企業が応札できるってことだから、必要な技術者数が減るってことだね。それでも、整備局と県、市の発注が一斉に出始めると、県内だけでは技術者が足りなくなると心配する人もいた。
 技術者不足も心配だけど、もっと深刻なのは技能者不足だ。労務費が上がることを見越して被災地外の仕事は請けないようにしているという話を聞いた。すでにがれき処理では1日当たり3万円を提示しているという噂もある。被災地では、労務費が本当に上昇するなら、発注者が早く予定価格に反映しないと、企業側は苦しくなるばっかりだ。被災地に技能労働者が流れるため、ほかの地域での入札で不調が続発するかもしれないという話もある。だからって、育成に時間がかかる技能労働者を今すぐ大増員できる訳ではない。国交省や自治体は、真剣に技能労働者不足の対応を考えないと、来夏には「日本全国、不調の嵐」ってことになりかねない。

2011/12/08

理科大でコンピューティショナル・デザイン・スタジオを立ち上げ/廣瀬大祐さん

 東京理科大大学院を卒業後、隈研吾都市建築設計事務所を経て米国コロンビア大大学院でコンピューティショナル・デザインを学んだ。現在、設計事務所「ARCHICOMPLEX」を主宰している。コロンビア大では、バーナード・チュミの「ペーパーレス・スタジオ」でデジタルをツールとして使うことを覚えた。現在は母校で有志の学生55人を集めTUSデジタル・スタジオを開設した。
 コロンビア大大学院の初講義でエバン・ダグラス教授は、「スクラップ工場で好きなものを拾ってこい」という指示を出した。車のミラーやドアなどをそれぞれが抱えて帰ると、「天井から吊せ」という。何のためなのかわからず、文句を言う院生もいた。その後、3次元スキャナーでデータ化し、コンピューターに取り込んだ。
 「これは院生の固定概念を壊すためだった。ドラフターで製図することが当たり前だったわれわれの目をデジタルへと向けるため、またどこかで見たような設計から脱出させるための作戦だったようだ」と廣瀬氏は振り返る。どうすれば既存の枠にとらわれない建築ができるか、前の見えない暗闇に飛び込んでいくような経験だった。
 その後、3次元モデリングツールの、「MAYA」(現在はオートデスク社が販売)を使ってFEM(有限要素法)による構造解析プラグインを独自に製作した。「自分で設計したものは構造まで責任を持ちたかった」からだ。
 コンピューターに真摯な設定を与えると、経験や先天的な発想では獲得し得ない現象が現れるという。そのような設計をするには、自分で新しいツールを開発する必要があると考えている。東京理科大で立ち上げたTUSデジタル・スタジオでも、学生にそう言い続けている。
TUSデジタル・スタジオ
 スタジオは毎週一度、大学の後援のもとで運営、ライノセラスというCADとグラスホッパープラグインで、アルゴリズミック・デザインを体験したり、アルディーノというマイコンボードでプログラミングを学ぶ実習を続けている。外部講師を呼んだ講演会も開く。目下の悩みは「月に数万円程度の活動費の工面」だそうだ。現在、活動を支援するスポンサーを募っている。
 廣瀬氏は「日本はコンピューティショナル・デザインについて、まだ発展途上だ。しかしデジタルツールの開発では十分世界を相手にできる」と、スタジオの将来を描く。
 昨年、福島県で、コンピューティショナル・デザインの概念を取り入れた事務所兼住宅「Squared Cloud」を設計した。この作品は一見、感性でデザインしたと感じさせる外観だが、使う人の動線を緻密にコンピューターでシミュレートしたものだ。居室やキッチンなどを泡に見立て、寝殿造りの計画に合わせるようにバブルを生成した。施工は常磐開発が担当した。
 この住宅は「2012年JID賞ビエンナーレ インテリア スペース賞」を受賞した。住宅での受賞は異例だ。
 「何か同じものに頼る設計手法でなく、新しいツールが加われば未来はおもしろくなる」と話す。

追悼寄稿・林昌二氏へ/「職能確立へ基礎固め」日本建築家協会会長・芦原太郎

 林昌二先生の突然の訃報に驚いています。
 林先生は、1990年5月から2年間、社団法人日本建築家協会(JIA)の第3代会長の重責を担われました。当時、日建設計という大手組織設計事務所の副社長職と兼務されており、そのご苦労は計り知れないものがあったと思います。
 林先生自身、日本を代表する建築家としても、素晴らしい作品を残されました。中でも東京・竹橋の「パレスサイドビル」は日本のモダニズム建築を代表するものです。そのほか、「ポーラ五反田ビル」「新宿NSビル」をはじめ、設計された数々の著名な建築は、歳月を経ても、いまなお人々とともに生き続けています。
 組織事務所の経営に関しても、卓越した経営能力とアイデアで組織事務所の設計の質を高め、東京地区での経営基盤を確立し、さらに国際的総合設計事務所に発展させた経営手腕にも目を見張るものがあります。
 私たちのJIAの会長としては建築家の職能確立に向けて、文字通り私たちの先頭に立って活躍してくださいました。JIAの設立間もない時代、組織や運営のあり方はじめ、JIAの基礎固めをされるとともに、JIAが創設した建築家資格制度(登録建築家)の原型となる欧米の資格制度の紹介、建築家の地位向上のための建築士法改正への努力、そして、設計競技方法の改善への運動を積極的に進められました。
 建築家の国際交流の面においても大きな貢献をされました。JIAの「建築家国際交流基金」創設の中心メンバーとして、国際活動の経済基盤を確実な形に残されました。また、今秋開催の「UIA建築家大会2011東京」は大成功のうちに終了しましたが、これは林先生がJIA会長時代、1991年にカナダモントリオールでのUIA総会で日本での開催を立候補されたことがそもそもの始まりです。建築家の長年の夢でもあった東京大会を見届けられたかのような林先生のご逝去でした。
 後に続く私たち建築家は、林先生の遺志を受け継ぎ、若者が進んで建築設計界を志すことができるよう環境整備を図り、建築設計界をますます発展させることに力を合わせて邁進して行きたいと思います。
 私たちに楽しくも厳しい建築家人生を示していただいた林先生、奥様の雅子さんとご一緒に安らかにおやすみください。

追悼寄稿・林昌二氏へ/「近代精神の持ち主」建築史家・青山学院大学教授・鈴木博之

 林昌二氏が亡くなられた。戦後日本の建築をリードして来た、もっとも実力のある建築家のひとりが亡くなられたことの喪失感に茫然とする。氏は20歳以上年下のわたくしにとって、学生時代から、時代の指標を示してくれる建築家だった。1955年の掛川市庁舎、62年の銀座の三愛ドリームセンター、66年のパレスサイドビル、71年のポーラ五反田ビルや日本IBM本社ビルなどは、戦後の日本が高度経済成長を遂げてゆく軌跡そのものを示す建築群であった。とりわけパレスサイドビルは建築の各部分が明快に組み合わされた構成をもち、部分と全体の関係に間然(かんぜん)するところがなかった。
 わが国を代表する日建設計の「顔」として、林氏は個性的な存在感を漂わせる建築家であった。建築における(あるいは社会全体における)組織と個人の関係を考えるとき、林昌二氏の生き方はひとつの理想とも映った。ちょうどパレスサイドビルのように、個人である林氏は、組織人として、全体である日建設計とのあいだに間然するところのない関係を示しつづけた。
 航空機設計の夢を抱きつづけていたにも拘わらず、それが敗戦によって一挙に崩れ去ったために、図らずも建築を選んだという意識を後々までも語りつづけた林氏にとって建築が航空機のような極限設計に近づくことが一つの夢だった。これは同じくハイテクの建築を追求したノーマン・フォスターの作品と意識に共通するところがあった。しかしながらフリー・アーキテクトをもって建築家の理想型とする西欧的伝統のなかで、組織事務所に身を置く林氏は、ある種の屈折を持ち続けていたように見えた。75年に書かれた「その社会が建築を創る」という文章は、眼高手低の批評家たちに向かって、「建築家はそのような優雅さを許されない」と述べて、建築家が現実そのものを相手にしなければならないことを訴えた。けれどもそこには現実追随の、苦い思いもあったに違いない。自己の文章をまとめた著作を、毒の字だけを赤く印刷した『林昌二建築毒本』(2004年)と名づけ、そこに自分の頭蓋骨のCTスキャンの画像を配するという徹底した韜晦(とうかい)ぶりは、2001年に最愛のパートナーであり同士であった建築家林雅子氏を失い、また、日建設計という組織を卒業した自己の、解毒作業だったのかもしれない。亡き愛妻の作品集『建築家林雅子』(2002年)の跋文(ばつぶん)に「現在主義」が雅子風だと記した昌二氏は、そこには価値観の転倒を経験した世代の無念と意地が込められているという。そしてそれは昌二風でもあった。
 自己を相対化して見つめることのできる近代精神をもった知的建築家、林昌二氏の逝去を心から悼みたい。

2011/12/07

隈研吾氏が設計する「スターバックス」/福岡の太宰府に出現!

 建築家の隈研吾氏の設計によるコーヒーチェーン店「スターバックスコーヒー」が、福岡県の太宰府天満宮の表参道に完成した。16日からオープンする。木造平屋建てで、内部空間はXの形で組まれた60mm角のスギ材が約2000本使われた=写真。
 スターバックスコーヒージャパンによると、木組み構造がモチーフで、太宰府天満宮のシンボルの梅が庭に植えられるなど、これまでのスターバックスにはない新しいデザインの店舗だという。世界的に見て、建築家とコラボレーションしたスターバックスの建物は珍しい。
 隈氏は、「太宰府という歴史ある土地に対して、現代的とも言える新たな木組みを参道に面して露出させることにより、歴史的な街における新しい建築のあり方を試みた」と述べている。太宰府の参道の伝統的な街並みと最新の木造技術を調和させる挑戦的な建築となった。
 間口7・5m、奥行き約40mの細長い敷地で、ここに奥行き33m、天井高さ4・5mの木造平屋を建築した。内部空間を覆い尽くすXの形に組まれた木組みは、60mm角のスギ材が総延長で4390mにもなる。角材は1・3-4mのものを約2000本使った。木組みは、木造の軸組に沿わせるように、天井、壁、床に接合することで、空間に対して筋交いの役割を果たす。
 天井から壁にかけて徐々にレイヤーを増すように木組みを構成、空間に厚みと奥行きを持たせると同時に構造的にもさらに強いものにしている。

インフラ関連の24学会が枠を超えて集結!/連続シンポジウムが開幕

 日本の国土・社会・産業基盤にかかわる24の学会が連携する!。土木学会や建築学会、地盤工学会、空気調和・衛生工学会などが従来の枠を超えて連続シンポジウムを立ち上げた。「巨大災害から生命と国土を護る-24学会からの発信-」をメーンテーマに、今月から毎月一回のペースで連続開催する。6日には、第1回として「今後考えるべきハザード(地震動、津波等)と規模は何か」を東京都港区の日本学術会議で開いた。
 シンポジウムに先立ち各学会の会長らが会見し、シンポジウムが学会間の垣根、壁を越え、連携して開催されることの意義を強調した=写真。
 シンポジウムは、日本学術会議(大西隆会長)と東日本大震災の総合対応に関する学協会連絡会(会長・和田章日本建築学会長)が主催するもので、記者会見で大西会長は「震災復興や災害に対し、このテーマのもとに日本の国土・社会・産業基盤にかかわる24の学会が大同団結したことは画期的」と説明。和田会長も「各分野ごとの縦割りを反省し、学会をまたがって議論しようということで準備をしてきた」とした。
 また、同連絡会の幹事を務める濱田政則元土木学会長も「シンポジウムでは、関係学会が共同して取り組むべき課題を浮き彫りにし、緩やかな連携を図っていければと考えている。また、自然災害の被害軽減には広域の分野の連携が不可欠。この連絡会がさらに広域連携の出発点になれば」と期待を寄せた。
 会見には、山本卓朗土木学会長や坂本雄三空気調和・衛生工学会長、島崎邦彦日本活断層学会長、千木良雅弘日本応用地質学会長、酒井慎一日本地震学会常務、中里卓治環境システム計測制御学会副会長、丸山久一日本コンクリート工学会副会長も出席し、それぞれ、東日本大震災に対する取り組み状況を説明するとともに、関係学会の連携の重要性や意義を強調。さらに、今後の展開に期待を寄せた。
 同連絡会では、6日に始まった連続シンポジウムのほかに東日本大震災に関する学協会合同のホームページを開設することにしており、「このホームページがこれからの連携の基盤になる」(濱田幹事)。

埼玉のテシマ設計。自邸兼事務所/仲間でにぎわう“たまり場”を創出


 スリット状の窓を外部から見える位置に配置。家庭の温かい光を屋外にもれ出させ、建物自体が照明器具になるようにした。テシマ設計を主宰する手島亙氏の自邸兼事務所(埼玉県宮代町)は、夜中の街に灯台のように明かりをともし、夜道を行き交う人々に安心感を与えている。
 建物は木造2階建て。テラスや庇を随所に配置することで、外部と内部の中間領域を設けた。この空間が、生活の雰囲気を外部ににじみ出すだけでなく、外部から人を自然に引き込む魅力を持たせている。
 設計した手島代表は「生活に外部を入り込ませる『ごたまぜ感』を出すことで日常的ではない楽しさを発見できる」効果を意図したという。玄関にもスリットをランダムに施し、内部の光が訪問客を出迎えるようにしている。
 外観は、自身が幼少期を過ごし、事務所として使用してきた生家のたたずまいを継承。トタン外壁を現代風にアレンジし、手作業で凹凸を付けた黒色のトタンが、周囲の空間とメリハリを醸し出している。
 構造材には「地元産の杉を使った。気候条件に対応する粘り強さを感じる」とも。また、沖縄産の和紙・月桃紙を壁紙に使い、窓には障子を配置して柔らかさを演出した。古い電車の木造建具を窓枠に採用するなど遊び心もそこかしこに。
 住宅部分では一般の人も参加できる見学会や手作りコンサートを開催。「“たまり場”を意識した」と言うように、他者への優しさがにじみ出る建物だからこそ、設計関係者にとどまらず地域活動の仲間で常ににぎわう。

2011/12/06

大成建設が447億でベトナムの空港ビル受注

 大成建設は、ベトナム・ハノイ市郊外のノイバイ国際空港第2旅客ターミナルビル建設工事を受注した。同国ゼネコン最大手のビナコネックス社との共同企業体で施工、JV全体での請負金は約447億円(税別)。JVの出資比率は非公表。本邦技術活用型の円借款を活用して整備する。延べ約14万㎡の旅客ターミナルビルなどを建設する。工期は2012年2月から14年12月までの34カ月を予定している。
 ベトナム北部空港公社(NAC)が発注し、工事名称は「ベトナム・ハノイ・ノイバイ国際空港第2旅客ターミナルビル新築工事」。設計は日本空港コンサルタンツが担当した。ノイバイ国際空港はホーチミン・タンソンニャット空港に次ぐベトナム第2の国際空港で、北部ベトナムでは最大規模を誇る。現在は3200mと3800mの滑走路を備え、ベトナム国内8都市、海外約30都市に25の航空会社が就航している。現行施設では今後の利用者増に対応できないため、第2旅客ターミナルビルを増設する。
 建設地はハノイ市郊外の既設空港内。旅客ターミナルビルはRC・S造地下1階地上4階建て13万9216㎡。付属建物計18棟、駐車場、ターミナル高架道路、塗装工事(約15万㎡)、空港特殊設備(手荷物搬送設備、搭乗橋、フライト情報システム、保安設備、チェックインシステム)、汚水処理設備、燃料供給システムなども建設する。
 これによりノイバイ空港全体で、年間旅客者数1200万人規模となり、既存の第1ターミナルビルを国内線専用、第2ターミナルビルを国際線専用として運用する計画だ。

除染後の土砂、枯葉を仮置保管/福島・中島村がコンクリボックス試験採用

 福島県中島村は4日、除染作業後の土砂や枯葉などをプレキャスト製のコンクリートボックスに仮置保管した。中間貯蔵施設が完成するまでの仮置き場として、大成建設や昭和コンクリート工業などが参加する「汚染廃棄物仮置保管施設研究会」の考案した保管システムを試験的に採用。同日、村有地で設置作業が行われた。
 コンクリートボックスは四方が1700mm、高さが1400mm。内側に遮水シートを設置し、上から蓋パネルを連結ボルトで固定することで、外部環境と汚染廃棄物を遮断する。研究会の試算ではコンクリート厚20mmの場合、放射線量の遮へい率は95%に達する。
 4日の設置作業では、県内の原山行政区の除染作業後に出た汚染物質が集められ、2個のコンクリートボックスの中に仮置保管された。同村住民生活課は「土砂や枯葉などをむき出しのまま保管できず、当初は穴を掘って一時的に埋めることを考えていたが、コンクリートボックスの提案を受けて急きょ試験的に試みた」と話す。
 被災地では除染後の土砂などを野積みにしているケースが多く、しかるべき処理方法の合意が得られるまでの対策に苦慮している。研究会はL型擁壁などコンクリートプレキャスト部材による仮置保管システムを考案。既に下水汚泥の仮置きシステムなどに採用されている。

「孤立集落はつくらない」/新潟・福島豪雨被災の二本木橋復旧へ

 7月の新潟・福島豪雨で被災した国道252号二本木橋の応急復旧工事が急ピッチで進められている。北陸地方整備局が直轄権限代行事業として実施するもので、降雪前までに仮橋を建設する。施工を担当する前田建設工業では、阿賀野川水系阿賀川・只見川の急流と地形上の厳しい制約の中、大型土のうと補強土壁を組み合わせた盛土工法などを取り入れ、工期の短縮に努めている。
 福島県会津地方の交通の要衝である国道252号に架かる二本木橋は、7月の豪雨による洪水で落橋。現在のう回路は道幅がせまく除雪車の通行が困難で降雪時には使用できなくなるため、一部集落が孤立する恐れがあり、地元から早期復旧が求められていた。
 このため、同県の要請を受けた国土交通省では、二本木橋を含む道路関連施設の災害復旧を直轄権限代行として同局で実施することとした。
仮橋の概要は長さ約67m、幅6m。東日本大震災で活用された応急組立橋は地形的な制約があって適用できず、メタルプレートガーダー橋とした。下部工ではダウンザボール工法を採用し、強固な橋台、橋脚などを造り上げた=写真。12月に入ると同時に上部工に着手。現在の進捗率は60%を超えている。
 施工に当たっている前田建設工業の佐々木祥次現場代理人は「降雪による孤立集落の発生は絶対に避けなければならない」とした上で「厳しい作業の中、無事故・無災害を目指し、安全管理にも尽力している。仮橋の早期開通を望む地域住民の思いに応えることがわれわれの使命だと感じている」と話している。
 本橋については現在、測量・設計の段階で、橋長や構造形式などを検討している。今後の用地買収などの進捗にもよるが、2012年度早々の着工を予定している。工事場所は金山町二本木-横田地内。

2011/12/05

元JIA会長、元日建設計副社長の林昌二氏が逝去

 半世紀にわたって日本の建築界をリードしてきた建築家の林昌二(はやし・しょうじ)氏が11月30日、病気のため死去した。83歳だった。妻は建築家の故林雅子さん。
 1953年に東京工大卒業後、日建設計工務(現日建設計)入社。77年常務東京本社代表、80年副社長に就任。93年からは副会長、最高顧問などを務めた。日本建築学会・作品賞を受賞したポーラ五反田ビルを始め、三愛ドリームセンター(東京都中央区)、パレスサイドビル(千代田区)、中野サンプラザ、新宿NSビルなど、半世紀にわたって日本を代表する建築を数多く手掛け、同社の発展を支えた。
 また、JIAで建築家資格が議論されている中、第3代会長(90、91年)として欧米各国の建築家資格制度や設計監理法人の正確な状況、実態をJIAが自ら調査、把握するための調査委員会を設立した。建築家資格制度は、この成果をベースにして具体的な検討、議論が始まることになる。現在のJIA建築家資格制度を振り返ると、大きなエポックとなる取り組みだった。また、国際交流基金を創設し、国際活動のための財政基盤を確立した。
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 20年近く前に林氏にインタビューした際、建築家が一般の人たちがわからないような言葉を使うのはおかしいと強く批判していたことをおぼえています。
 そうした林さんが「子どもからお年寄りまで誰でも、遠くから一目でわからないといけません」と説明してくれたのが交番です。林さんが設計した交番は、円柱に 警察帽をかぶせた〝警官〟をイメージしたものでした。「三愛ドリーム・センタ ー」(63年)の前にあった銀座4丁目交番が建て替えられてしまったことをとて も残念がっていました。ただ、同じデザインの交番がパレスサイド・ビルの入口にはまだ残っています。近くを通った時にはぜひ観てください。